日本のジョブ型雇用

キャリア 転職

最近経団連が積極的な導入を呼びかけ、注目の集まっているジョブ型雇用制度ですが、制度導入によって私たちの働き方はどのように変わって行くのでしょうか。ジョブ型雇用は既に転職マーケットではよく見られ、特に弁護士などの高スキル人材は、基本的にメンバーシップ型雇用とは無縁です。ジョブ型雇用の導入で労働市場がどのように変わっていくのか、リクルーターの目線から考えとまとめてみました。

  1. ジョブ型とメンバーシップ型
  2. ジョブ型、メンバーシップ型のメリット、デメリット
  3. 労働市場全体の変化
  4. ジョブ型雇用とスタートアップ

ジョブ型とメンバーシップ型

まずはじめに用語についてです。みなさんいろいろなところで既に目にされていると思うので、さっとおさらい程度にします。

ジョブ型雇用

採用するポジションで課されたミッションを決め、その職務内容(ジョブディスクリプション {JD略されることもある})を遂行できるスキル・経験のある人物を探し、雇用すること。職務内容と候補者の専門性のマッチングが肝になる。
欧米の労働市場に多い。欧米(外資) = 100%ジョブ型と思われがちだが、そうではない、多くの欧米企業で実施されている社内ポジションへの応募では、対象者の持つスキルと応募先ポジションとの親和性を度外視して決まるケースもある。これはメンバーシップ型で行われるジョブローテーションの特徴と一致する。

メンバーシップ型雇用

日本の新卒市場で一般的な雇用。担当業務を限定せず採用し、雇用主の必要や被雇用者の希望に合わせ、様々な業務を経験させる。

ジョブ型、メンバーシップ型のメリット、デメリット

次にジョブ型とメンバーシップ型、それぞれの考えうるメリット、デメリットについてです。

ジョブ型雇用のメリット

ハイスキルな人材に正当な対価が与えられる

ジョブ型雇用は、良くも悪くも能力主義です。理屈ではあなたのスキルに正比例して役職、給与などの待遇がよくなっていきます。
ジョブ型とメンバーシップ型の混合(メンバーシップ型の方が強い)である今の日本のマーケットでは、この力学はあまり働いておらず、超高スキルであるにも関わらず、その他大勢の人と同じような待遇に甘んじている方が少なくありません。

待遇が自分次第のため、スキルアップのモチベーションが高まる

上記のように自分のスキルと待遇の連動率が上がるため、生涯学習する動機が強まります。また待遇が不満でハイスキル人材が海外流出しているのを防ぐことにも繋がります。年功序列の色が薄くなり、若手も実力次第で発言力のあるポストにつけるため、現在一部企業で見られる、”優秀な若手から辞めていく”状況への対抗策としてもジョブ型雇用は有効です。

実力評価がやりやすくなり、社内政治の重要性が下がる

定量的に社員のパフォーマンスを測ることがメンバーシップ型よりは容易になり、社内政治の重要性も少しは下がります。とは言え、程度問題なので、ジョブ型雇用がこれらを完全に是正できるわけではありません。

何かあっても、他社で仕事が見つかりやすくなる

ジョブ型雇用では専門性が身につきやすいため、転職が容易になります。外資に限らず、日系でも新興、中規模以上の企業はジョブ型採用が増えています。逆にメンバーシップ型のまま長く勤務していると他社への転職が難しくなります。

ジョブ型雇用のデメリット

不公平な競争にさらされる人が出てくる

総合職採用で今までメンバーシップ型の会社で働いてきたミドル、シニアレベルのジェネラリストの方は、スペシャリストが重用されるジョブ型雇用の中では今までほど重んじられません。このため、急にメンバーシップ型からジョブ型に転換すると、多くの人材が降格されたり、職を失ったりする可能性があります。

自身の興味関心分野を探る機会が減る

メンバーシップ型では、一般的にジョブローテーションをして、社員に様々な業務を経験させます。専門性を磨くという観点ではマイナスですが、多くの異なる業務を経験することで自分の適正や好みを見つけることができ、30代前半くらまでであれば、他社のジョブ型ポジションへの転職も容易です。一方新卒からジョブ型採用が一般的になると、こうした機会を失います。

長期的なビジネス計画に馴染みづらい

ジョブ型雇用では、いつか転職するのが前提のようなところがあります。このため、長期的に自社のビジネスを成功させようという考えが希薄な方も少なくありません。メンバーシップ型よりも評価が短期的なことも少なくなく、因小失大になりがちです。雇用側目線からのみのデメリットに見えますが、被雇用側にとっても、仕事で大きな絵を書きづらいのは悲しいことと感じる方も少なくありません。

自社への理解、愛着を深めやすい

メンバーシップ型雇用ではジョブローテーションを通し、自社について多角的に見る機会を与え、深い理解をもたらします。
また、一社で様々な仕事を経験することで、人材交流がより活発になり、自社への帰属意識、愛着が高まります。

自分の適正を見つけられる機会が得られる

上記ジョブ型雇用のデメリットの逆です。ジョブローテーションがあることで、自分が興味を持てる仕事を見つけられる可能性が高くなります。自分の好きな仕事が見つかった段階で、ジョブ型雇用で転職し、選んだ仕事をずっと続けていくという選択も可能です。

長期的視点に立って仕事がしやすい

上記ジョブ型雇用のデメリットの逆です。メンバーシップ型雇用では、社員が比較的長期間在籍し、”会社の将来は、自分の将来”と感じる方が多く、仕事を長期的視野で見ることが比較的容易です。見方によっては、会社と一蓮托生で古臭いように感じますが、遠くの大きなゴールのために目先の小さな損失を恐れずする仕事はやりがいがあります。

ハイスキルな人材が待遇面で正当な評価をされない。

上記ジョブ型雇用のデメリットの逆です。
メンバーシップ雇用では、パフォーマンスが高い人と低い人での待遇差が小さく、向上心を保つことが難しいと感じる方が少なくありません。

専門性を高めにくい

上記ジョブ型雇用のデメリットは、デメリットにもなり得ます。ジョブローテーションがあることで、一つの職種を長く続けることが困難で、ジェネラリストになりがちです。ジェネラリストが悪いということではないのですが、なんらかの理由で転職しなければいけなくなった場合や、今後ジョブ型採用が一般的になった場合は、仕事を見つけることが困難になる可能性があります。
このため、新卒総合職採用で勤務されてきた方には、一生の内で一回でも転職するか否かを早めに決め、もしするのであれば30前半までを目安に行動をした方が良いとアドバイスしています。

評価がしにくく、昇進などにおいて社内政治の重要性が高くなる

上記ジョブ型雇用のデメリットの逆です。
ジョブローテーションをするため、専門性だけで評価するわけにもいきません。確固とした評価軸がないため、社内政治やえこひいきが入る余地が生まれやすくなります。

労働市場全体の変化

ここまでは、主に個人の視点で見てきましたが、労働市場全体を俯瞰してみるとどのように変わっていくでしょうか。
いずれも見る人の視点によって、メリット、デメリットが変わるため、敢えて個人的意見を排して述べていきます。

人材の流動性が上がる

どちらが良いかは別として、転職市場ではジェネラリストよりも、スペシャリストが好まれます。スペシャリストが生まれやすいジョブ型雇用下の労働市場では間違いなく転職が増え、人材の流動性が上がります。ジョブ型への移行が急激だと、長い間メンバーシップ型のシステム下でキャリアを築いてきた方たちが職に困ることになるかもしれません。

シニア人材を活かせる

超高齢化社会で、高スキルなシニア人材が多くいる日本。しかし、人材不足でありながら、彼ら彼女らを活かしきれているとは言えません。これは非常にもったいないことです。しかし、今よりもドライに採用候補者の専門性を見るジョブ型雇用が進んだら、シニア人材をより活かせるようになるかもしれません。

社会人学生が増える

専門性が重視され、スキルの向上が今よりもダイレクトにキャリアアップに反映されるようになると、社会人学生が増えます。生涯学習が必須になるでしょう。

ジョブ型雇用とスタートアップ

最後に、ジョブ型雇用の一般化と日系スタートップ(ベンチャー企業)の台頭についてお話しします。
嬉しいことに、起業家精神のないと言われてきた日本でもTech系のスタートアップがどんどん増えてきています。しかし、スタートアップは、現在想定されているジョブ型雇用との相性が良いとは言えません。

通常スタートアップは少人数のため、複数の異なる仕事を一人がやらなければならなかったり、人手が足りない領域を一時的に手伝ったりします。ある程度組織が整ってきたスタートアップ企業でも、あまり親和性の高くない複数の仕事を兼任をしてたりするので、現在謳われれているジョブ型雇用の思想とはマッチしません。かと言って、こうしたスタートアップの雇用はメンバーシップ型とも違うので、今後この二つのトレンドがどのように折り合っていくのか注目です。
ジョブ型雇用の考え方自体、欧米では一般的で新しいものではないので、これから現代に即した新しい雇用の考え方が出てきたら面白いと思います。

※スタートアップへの転職について知りたい方は、こちらをご覧ください。

いかがでしたでしょうか。
大きな変化ですが、しっかりと理解を深めていくことで、好機にもなり得ると思います。今後もジョブ型雇用の日本労働市場や経済への影響から目が離せません。