インハウス1社目の選び方【インハウス転向を考えている弁護士のみなさんへ】

法務 転職

インハウスロイヤーへの転向を検討されたことはありますか?

日本組織内弁護士協会(JILA)によると、インハウスロイヤーの人数は3,000人に迫る勢いだそうです。その増加速度は非常に早く過去10年で約4倍になるといいます。

3000人に迫る社内弁護士、10年で4倍弱 政策提言も

日々弁護士のみなさんのキャリア相談に乗っていると、インハウスを希望される潜在層は非常に厚く、まだまだ増加の一途を辿るであろうと感じます。
しかし、インハウス人気の高まりに対し、企業選びのリテラシーがついていっていないという印象を受けるのも事実です。1社目のインハウスを選ぶに当たり、給与以外にも気にすべき点はたくさんあります。いずれもこれから長きに渡りインハウスで活躍するにあたり重要なポイントです。

今回は、インハウスロイヤーとして活躍する最初の一社の選び方について解説していきます。

  1. 大規模?小規模?
  2. 日系?外資?
  3. 業界
  4. 最初の業界選び
    将来の業界選び

  5. 弁護士がいる会社?いない会社?
  6. 給与
  7. まとめ

大規模?小規模?

初めてのインハウス転職を希望される方の半数以上は大手企業を希望されます。しかし、もしみなさんがなんとなく安牌を切るという理由で大手を志望されているのであれば、以下の大規模(主に大手を想定)・小規模(主にスタートアップを想定)企業の一般的な特徴を見ながらもう一度考えてみると良いと思います。

大手の方が箔がつくのではないか?と思っている方もいらっしゃると思います。
確かに数年前までは大規模な会社から小規模な会社への転職事例はあっても、その逆は少なく「まずは大規模な会社に入っておく」ことが有効な選択でした。しかし、最近は大規模な会社が小規模な会社の出身者を採用するケースが増えてきたため、「箔」のことは気にせず、真に自分に向いた企業を選ぶことのできる良い時代になったと感じます。

日系?外資?

日系企業と外資の違いと言えば、真っ先に給与と英語使用頻度が思い浮かぶ方は多いでしょう。しかし、違いは他にもあります。
以下に比較してみました。

キャリアのご相談を受けるときによくあるのが、「グローバルな仕事がしたいから外資系を希望」というものですが、実際は逆です。社内での英語使用頻度は外資の方が高いのが普通ですが、海外法務に関わることができるのは断然日系企業です。

さらに詳しい日系と外資の違いについては、以下の記事をご参照いただければ幸いです。

どっちがいいの? 日系企業と外資系企業の種類と比較

業界

業界選びに頭を悩ます方は多いのではないでしょうか。

最初の業界選び

大多数の法律事務所で勤務されている弁護士の方は、自分の専門分野と関係の深い業界から検討されると思います。
クライアントにヘルスケアが多ければ、ヘルスケア業界から検討。M&Aが専門であれば、製造業や投資銀行を検討。といった具合です。

しかし、本当はインハウスに転向されるときには、今までやってきたことに縛られる必要はありません。
金融を専門に扱ってきたが、金融機関には行きたくない方など、インハウス転向を契機に新しいことに挑戦したいという相談をいただくことがよくあります。このような希望には、「今までやってきたことが無駄にならないか」、「自分の専門分野でなくとも採用してもらえるのか / 正当な評価は得られるのか」、「知見のない分野で失敗したらどうしよう」などの心配がつきまといます。

当然の心配かと思います。ですが、法律事務所で扱ってきたのと異なる分野での内定獲得は日常茶飯事ですし、別分野の専門家だからと言って特段評価で損をされていることもありません。また、多くの方は法律事務所時代の専門と違う領域においても活躍されています。
インハウスでの仕事は、法律事務所に比べ、ジェネラリストとしての側面が強いです。通常、扱う法律分野も広く、それに加えて法律知識をベースとした事業・経営周りの助言、部門間調整、トレーニング、マネジメント、採用などの多くの要素で自身の価値が測られます。

インハウス採用での、評価のされ方には二つの軸があります。それは、「専門性」と「一般的な意味での優秀さ」です。
専門性は言葉そのままで、自身の専門分野での、知識、経験です。これに対し、一般的な意味での優秀さというのは、専門分野に関係なく、弁護士としてどれだけ優秀に見られるか(地頭がいいか、新しい分野でもすぐにキャッチアップしてくれそうか等)を意味します。

例を挙げると、過去に大手事務所で不動産領域で活躍されていた方が、超大手製薬企業のNo2ポジションで内定を受けられたことがあります。これは同社が当初想定していたレベルよりも職位を上げてのオファーでした。内定獲得事態が難しい人気企業で、「未経験者」にこのような内定が出たのを聞いて、多くの方が驚かれました。しかし、前述の、「専門性」と「一般的な意味での優秀さ」の二軸にて採用時の評価が決まると知っていれば、驚くに値しません。純粋にこの方が専門性の不利を補って余りあるほど優秀だと評価されたまでのことです。

ここで私が言いたいのは、専門外の分野に行くべきということでなく、インハウス転向時には、皆さんが思っている以上の自由と選択肢があるということです。
ぜひキャリア選択の際には、「常識」という縛り、足枷から自由になって動いていただければと思います。

将来の業界選び

ここまででインハウスの最初の業界は比較的選択の自由があるということはわかっていただけたかと思います。
ですが、多忙な法律事務所勤務をこなしながら、インハウスとしてどの業界にコミットするのかを決断するのには二の足を踏まれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな方に良いニュースがあります。インハウスにおいて業界を跨いでの転職は以前より一般的になりました。
一般的に外から入るのが難しかった製薬企業でさえ、直近1,5年で2社が法務部長募集を他業界出身者にもオープンにしました。
会社や採用マネージャーによっては他業界出身者を優先するケースすらあります。
これらは飽くまでも傾向で、「できれば同業界出身者を」という募集も多いですが、以前に比べて一度の業界選びで一生が縛られにくくなったとは言えます。

しかし、そんな中でも後から業界未経験で入るのがほぼ不可能な業界があります。
それは金融です。

銀行、証券会社、投資銀行、アセットマネジメントなどの金融機関に関しては「キャリアのどこかで」経験されたいのであれば、後回しにするべきではありません。

逆に金融から非金融はシニアレベルになってからでも転向される例が見受けられます。
このトレンドは、約5年前に某大手金融のAPAC General Counselが大手米系IT企業のGeneral Counselになられたあたりから益々一般的になってきたように思います。

これらを踏まえて、純粋に「自分の興味ある業界を選ぶ」ことが業界選びの基本になります。また、業界選びのアドバイスとしては逆説的ですが、「業界に縛られず、自分の興味のある会社に入る」ことも重要です。

それぞれの業界についての詳しい特徴などは、お問い合わせページや、LinkedInから直接ご質問いただければ幸いです。

弁護士がいる会社?いない会社?

応募を検討している企業に既に弁護士が在籍しているかどうか気になる方も多いのではないでしょうか。
弁護士の方は仕事柄か、リスクを避けた意思決定をすることが多いように感じます。(少なくとも転職においては)それが良いこともある反面、大きいリターンを取りこぼすことも少なくない印象です。

弁護士のみなさんの初めてのインハウス転向をお手伝いするということは、私の仕事において決して小さくない割合を占めています。その中で、過半数の方は既に弁護士が在籍している会社への転職を希望されます。最大の理由は、なんとなく安心であることです。
それが正解とか間違いとかではないのですが、弁護士がいる会社、いない会社のそれぞれの特色を理解した上で、自分に合った選択をしていただければより多くの方がより大きな満足を自身のキャリアから得ることができると思っています。

社内弁護士がいない会社での勤務は想像がつきにくいと思いますので、自身が初の社内弁護士になった例として以下の二つのインタビュー記事をご紹介させていただきます。

若松 牧弁護士(70期)の例 – Zeals

堀田 昂慈弁護士(68期)の例 – Hashport

社内弁護士がいない企業を初めから選択肢として見ないのではなく、真に自分に向いていると思える企業を冷静に検討していただければ幸いです。

給与

最後に気になる給与です。
多くの場合、インハウスへ転職することで収入が一旦落ちます。

インハウス志望理由の多くは、ワークライフバランスを改善したい、よりビジネスの近くで働きたい、自分の関わった案件の行く末を見たい、などで、収入減はそれらとのトレードオフと割り切り、収入を上げるためにインハウスを志すことは基本的に止めた方が良いでしょう。
(インハウスの方が労働時間が短いため、時給換算だと昇給するとも言えます)

飽くまでも傾向ですが、業界別で言えば、給与が一番高いグループには、証券/投資銀行、アセマネ(不動産含む)が入り、一番低いグループには、メーカーやエンタメ(ゲーム含む)が入り、その他の業界はその中間となります。

色々な方にアドバイスをしていることですが、初年度給与だけを比べて判断するのは早計です。
今後の昇給、その会社で積むことのできる経験の価値(換金性の高い経験)など、オファーレターに書いてある数字の裏を読み取り、それも踏まえての比較が必須です。

数字は比較が容易なことから、どうしても初年度給与に目が奪われがちですが、上記のような要素に加えて、居心地、一緒に働くメンバー、勤務地、その他の要素をひっくるめて意思決定をすることがこの先長いキャリアにプラスの影響を及ぼすでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか。インハウス転向における判断基準は無数にあり、人の数だけ正解があります。
ですが、実際にインハウス転職のお手伝いをしているとどうしても画一的な希望、選択が多いように感じます。
それが悪いということではありませんが、いつも「その判断は本当にご本人にとってよいものなのか?」という問いが頭をかすめます。

今回の記事ではインハウス転向の選択におけるおすすめなどは提示しませんでした。それは私の目的が、みなさんに「常識」から自由になってのびのびとキャリア選択をしていただくきっかけを作りたかったことと、そもそも万人における最適解などないからです。

今回の記事が皆さんの参考になることをこころより願っています。

以下に関連記事をご紹介いたしますので、よろしければこちらも併せてご参照ください。

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