弁護士の二択 – 法律事務所 or インハウス
法律事務所とインハウスどちらのキャリアを選ぶか。
弁護士の皆さんにとって大きな選択です。
弁護士の皆さんとお話していて、最もよく受ける質問の一つであるため、満足いただける回答ができるよう日々勉強しています。
そこで、日頃私がお話をさせていただく機会のない弁護士の皆さんにも参考にしていただけるように法律事務所とインハウスの違いについて解説していきたいと思います。現在法律事務所に勤務されている方を対象としているため、インハウスについての説明に比重を置きます。予めご了承ください。
*以下は私がお仕事でお話をさせていただいた多くの弁護士の皆さんのお話に基づくものです。この場を借りて皆さんにお礼を申し上げます。
インハウスロイヤーの増加
説明不要かと思いますが、インハウスとは企業内法務を指し、企業で勤務している弁護士をインハウスロイヤーと呼びます。
以前は弁護士は法律事務所で働くもの、という考えが一般的でしたが、新司法試験制度への移行による弁護士の増加、働き方への意識変革、企業からの需要などの理由から、近年人気が高まっています。
インハウスロイヤー数の推移 2001 – 2020年 (東京、第一、第二弁護士会合算)
出典:JILA “企業内弁護士数の推移”よりグラフ作成
https://jila.jp/wp/wp-content/themes/jila/pdf/transition.pdf
2020年時点で、東京の三つの弁護士会のいずれかに属している弁護士の約13%がインハウスロイヤーとして活躍されています。中には弁護士登録を外しているインハウスロイヤーもいらっしゃるので、実際の数字はもう少し上でしょう。
上図のインハウスロイヤーの増加に加え、“インハウスを検討中”の潜在的インハウスロイヤーも考慮に入れると、今後さらなる爆発的増加があってもおかしくありません。
基本を押さえたので、インハウスと法律事務所の比較をしていきます。
法律事務所とインハウスの比較
収入
一般的に法律事務所の方がインハウスよりも高いです。特に企業を顧客とした法律事務所から転職する場合は、転職先によっては半分以下の収入になることもあります。
金融や、一部ITなどは比較的給与が高めですが、大手法律事務所などの収入と比べると、落ちる可能性の方が高いことを覚悟しておく必要があります。
労働時間
通常インハウスの方が短いです。インハウスへ移る方は、収入とのトレードオフとして良いワークライフバランスを求める方が少なくありません。
ただし、法律事務所に比べてインハウスの方が就業時間に細かい点は否めません。法律事務所の方が大変だけど自由だったという声も聞きます。コロナや働き方改革などの後押し(?)もあり徐々にインハウスでも働き方の自由度が高くなってきているので、これからに期待です。
仕事内容
次に、仕事内容です。インハウスに移った方がよく言われるのが“よりビジネスの近くで仕事ができる”や、“自分事として仕事に取り組みやすい”です。
具体的には、以下の三点が最も大きな違いとして挙げられるでしょう。
複数の顧客 vs 単一の顧客
プロフェッショナルファームとして、複数の外部顧客に法律に関するアドバイスを行う法律事務所に対し、インハウスでは自社が唯一の顧客です。このため、良くも悪くも自社で必要な法務業務のみにあたります。業務範囲が狭くなるように見えますが、小さい法務部であったり、法務部内のジョブローテーションがある会社では、”その会社の事業に関する範囲において”は法律事務所で働く以上に広い業務範囲を経験することも可能です。
サポートファンクションへの所属
弁護士(大規模事務所では主にパートナー)は法律事務所では、仕事を取ってフロントオフィスとして利益を上げますが、インハウスでは、売り上げに直結しない仕事(所謂サポートファンクション)を多くすることになります。どんな種類の事業体においても、サポートファンクションがなくては成り立ちませんが、法律事務所で営業活動をしていて、それが自分に合っているのであれば、インハウスはお勧めできません。
ビジネスディシジョンへの関与
インハウスでは顧客が単一になるかわりに、関係性は深くなります。ビジネスの方向性を決める際に法務の意見を進んで取り入れる会社が増えてきたため、法務の見地から大きなビジネスディシジョンに直接関わることも期待できます。
また、自分の関わった案件の”その後”を見ることができる点もやりがいとして感じられる方が多いです。
あるインハウスロイヤーをお話しさせていただいた際に、「インハウスに移って良かったことは、ビジネスの種まきの段階から、発芽、花が咲き、その後の成長まで見ることができる点」とお話を伺ったことがります。非常に印象的な表現でした。
※インハウスとして働く会社によって大きく異なります。
キャリアパス
キャリアパスもインハウスを検討する上で気になる点だと思います。
法務部長を始め、以下のようなパターンがあります。
法務部長
最も一般的に想定するインハウスキャリアパスのゴールではないでしょうか。
当然ながら、インハウスになって経験を積むことで法務部長を目指すことができます。
会社によっては、ピープルマネジメントや、他部署との調整など、法務業務以外も経験でき、これをインハウスの醍醐味と感じる方もいます。
シニア法務(部長職でない)
法務部長職は大きな責任を伴います。時にそれは政治的なやっかいごとや超過勤務に繋がるため、敢えて部長にはならずに法務部の一スタッフとして活躍していく道を選ぶ方もいます。こうした考え方は決して珍しくなく、法務部のシニアメンバーとして部長の補佐をするポジションは、働きやすさ、やりがいともに、キャリアゴールの一つの正解と言えるでしょう。
部長にならずとも給与を上げていくことは可能ですし、会社によっては、部長の待遇と見劣りしないこともあるので、自身の志向に合わせて部長にならないこと検討される価値もあります。
コンプライアンス、リスクマネジメント部長
コンプラやリスクに所属していなくても、インハウス法務からコンプライアンス部長や、リスクマネジメント部長に抜擢されることがあります。
コンプライアンスやリスクマネジメントを重視する会社はどんどん増えてきており、後述する役員へ繋がる道としてもより一般的になっていくと思います。
また、法務部長と兼務で、コンプラインスやリスクマネジメントの責任者を務める例もよく見かけます。
役員
インハウスロイヤーから役員になる方も増えてきました。
実例を挙げると、某保険会社に勤めるインハウスロイヤーは取締役ですし、某米系大手消費財の代表取締役は、インハウスロイヤーからなっています。
こうした例は増加傾向にあるので、今後はますます機会が増えていくでしょうか。
インハウスから法律事務所に戻れるか
少し後ろ向きな考え方ですが、法律事務所からインハウスに移って、もし向いていなかった場合法律事務所に戻ることは可能でしょうか。
結論から申し上げると可能です。ただし年齢、経験とタイミングによります。
まず大前提として、法律事務所からインハウスに移った弁護士で、法律事務所に戻ることを希望される方は少なく、”戻るために動いた”サンプルが少ないです。
以下に、その少ないサンプルからわかる範囲で解説します。
年齢
法律事務所がアソシエイトを採用する場合は、若い方が優先されます。このため、ある程度の年齢になった弁護士が法律事務所に戻る場合、通例オブカウンセルかパートナーとして戻るしか選択肢がありません。しかし、オブカウンセルは枠が非常に少なく、パートナーはポータブルビジネス(クライアント)を持って来れるかが問われます。
例外はあれど、インハウスロイヤーとして勤務していてパートナーとして迎え入れられるほどのポータブルビジネスを持つのは難しいので、実質的には若いうちに法律事務所に戻るか、オブカウンセルを狙う必要があります。
法律事務所やプラクティスによってパートナーとして検討する傾向にある年齢が異なるため、何歳までであれば法律事務所に難なく戻ることができるとは一概には言えません。ご興味のある方は、お問い合わせからご相談ください。
経験とタイミング
前述の一般論とは異なり、中にはかなりシニアになってから法律事務所に戻る方もいます。ここ数年では、大手外資金融の部長がオブカウンセルとして法律事務所に戻ったのをはじめ、シニアレベルで同様の動きが数例見られます。
ただ、これは非常に特殊で希少性の高い経験を持っていることと、法律事務所側の需要が合致したケースで、経験だけでなく、タイミングも合わないと実現しない例外です。
いかがでしたでしょうか?
今回はインハウスを検討されている弁護士のみなさんへ情報を提供させていただきました。
法律事務所とインハウス、どちらが正解ということはありません。みなさんご自身個々の志向や、事情など考慮した上で決めるべきです。迷ったら詳しい人に相談して後悔のない判断をしてください。
さらにみなさんを迷わすことになってしまいかねませんが、弁護士のキャリアオプションがどんどん増えてきていて、インハウス法務にとどまらず、コンプライアンス、情報セキュリティ、コンサル、金融フロントオフィスに行かれる方などもいます。今後そうしたキャリアパスについても書いていく予定ですので、時折このサイトをチェックしていただけると嬉しいです。
併せて、法律事務所からインハウスへの初めての転職についてのリンクをご紹介します。よろしければご参照ください。