転職者目線と採用者目線で見るワークライフバランス
ワークライフバランスが良いところを紹介してください。
転職希望を伝える際、もはや決まり文句と化してしまった感があります。
電通での長時間労働が引き起こした悲劇を境に企業と労働者のワークライフバランスへの意識が高まってきていますが、良いワークライフバランスとはなんなのかは、果たしてしっかりと理解されているでしょうか。
今回は、転職者、採用者それぞれの目から見たワークライフバランスの考え方と、転職や採用時に有用なワークライフバランスについての情報を紹介していきます。
- ワークライフバランスとは
- 転職者にとってのワークライフバランス
- 採用者にとってのワークライフバランス
- まとめ
ワークライフバランスが良い会社を見分けるには
ワークライフバランスの落とし穴
良いワークライフバランスは、採用にどの程度有利か
どのような制度でワークライフバランスを向上させるか
自社のワークライフバランスを求職者にどう伝えるか
ワークライフバランスとは
“ワークライフバランスが良い”とはどういう意味でしょうか。
人によって定義に違いがあると思いますが、大多数の方にとって、ワークライフバランスが良いとは、“プライベートな時間を十分に取ることのできる環境”を指すのではないでしょうか。これは、多くの場合において、残業が少ないことと同義で、加えて、休みが取りやすいこと(バケーション、介護、出産・育児など含む)も含まれるでしょう。
そこで、今回の記事においては、以下の定義で進めていきます。
“ワークライフバランスが良い” = “残業がほどほど (概ね 0 – 20時間/月)で、バケーションやライフイベントが理由の休暇を取りやすい環境”
転職者にとってのワークライフバランス
まずは、転職者目線でのワークライフバランスについてです。
冒頭でも書いたように、大多数の転職希望者がワークライフバランスの良さを求めています。この傾向は年々強まっており、ワークライフバランスについての質問も多く受けるようになってきました。
一番多い質問は、どうやってワークライフバランスの良い会社を見分けるかです。
ワークライフバランスが良い会社を見分けるには
結論から言ってしまうと、その会社に詳しいリクルーターなどに聞いた方が良いのですが、今回はリクルーターを使わない前提で解説していきます。
知り合いもいない(いても他部署であったりしたら情報の関連性は低い)会社のワークライフバランスの良し悪しを実際に働かずして測るのは困難です。しかし、応募する会社のワークライフバランスを判断する上で知っておいた方が良いことはいくつかありますので、以下にご紹介します。
業界
業界によってワークライフバランスに優劣をつけるのは難しいですが、一般的に高給が多い業界の方が仕事はハードなケースが多いです。
例えば、法律事務所、証券・投資銀行、コンサルティングファームなどが一般的に激務な業界に挙げられます。当然個々の会社で事情は違いますし、後述するようにこうした業界でも職種によってワークライフバランスに大きな差があります。
日系・外資
外資の方が日系よりもワークライフバランスが良いのではないか、と聞くこともありますが、どこの国の会社かでワークライフバランスを予測するのは困難です。
“バケーション文化のあるフランス企業では休みが取りやすいのではないか”、などと考える方もいらっしゃいますが、本社がそうだからと言って支社もそうとは限りません。
ひと昔前に比べて、日系企業でも有給休暇を取りやすくなったり、無謀な残業をさせなくなってきているので、ワークライフバランスが理由で外資を選ぶのは早計です。
ワークライフバランス以外の日系・外資の比較については以下のリンクをご参照ください。
どっちがいいの? 日系企業と外資系企業の種類と比較
職種
業界や個々の会社だけではなく、職種によってもワークライフバランスは大きく変わります。
例を挙げると、外部のステイクホルダーとのやりとりの多い営業職は相手の都合に合わせなければならないため、比較的ワークライフバランスが期待できない職種です。
ここで押さえるべきことは、ワークライフバランスの良い(悪い)という評判のある会社だからと言って、全ての職種で良い(悪い)とは言い切れない点です。
例えば、長時間労働で有名な(得るものは多いものの)某コンサル企業は、コンサルタント職では評判通りのハードワークな環境であるものの、法務にいる私の知人曰く、法務部のワークライフバランスは非常に良いと聞いています。
このように、ワークライフバランスを測る際には、会社単位ではなく、職種単位(チーム単位)で判断することが肝要です。
実際にその会社で働いている知人の話でも、職種が違えば事情は異なりますし、企業の口コミサイトでのワークライフバランスの評価が高かったり低かったりしても、その評価者の大部分があなたの希望する職種と違う場合(例:口コミを投稿している人の9割が営業職だが、あなたの希望は経理)、そのデータの有用性は著しく低くなります。
ワークライフバランスの落とし穴
一見ワークライフバランスが良いように見えて、思わぬ落とし穴があるというケースもあります。以下を押さえることでそうしたリスクを軽減しましょう。
見えない長時間拘束
ここ数年で、オフィスの外でも仕事ができる環境が整ってきました。さらにコロナがそうした環境構築の推進に一役買って、メールを始め、常に仕事をするプラットフォームへのアクセスがあることが常識となってきています。
中にはオフィスでの拘束時間が短い限り、家などでの仕事を余儀なくされているとしても、”ワークライフバランスが良い”であろうと判断する人もいますので、この点は留意しておいた方が良いでしょう。人それぞれ考え方の違いなので、上記の考え方が間違っているわけではありませんが、“ワークライフバランス”の定義についてすれ違ったまま話を進めると、転職をしたあと後悔することもあり得ます。
求められるパフォーマンスとのバランス
勤務しなければいけない時間が短い = ワークライフバランスが良い、が成り立たないケースもあります。成果主義の考えが強まる昨今、求められるパフォーマンスを上げるためには残業が必須な方も少なくないと思います。特に転職したばかりで勝手が分かっていない時はなおのことです。
その際に、残業が厳しく制限されていたらどうなるでしょうか。
これは、実際に某米国系大手企業であった話ですが、その企業は残業規制が厳しく、”ワークライフバランスが良い”ことで有名でした。しかし、社員の中には不幸せそうな方が少なくありません。理由は、求められるパフォーマンスに到達するためには残業が必要にも関わらず、物理的にできないためです。これが理由で、低パフォーマーという評価が出て、泣く泣く転職をした方を何人も見ました。
休暇中の仕事の行方
ワークライフバランスが良い、という定義の中に休暇の多さ、取りやすさも含まれます。しかし、休暇の質を気にしたことはありますか?
休暇は取れても休暇前後にその分仕事量が増えたら、元も子もありません。また、休暇中にも高頻度のメールチェック・返信を求められたりしたら、何のために休んでいるかわかりません。ワークライフバランスを測る時には、休暇日数だけではなく、休暇中のサポート体制(他の人にハンドオーバー可能なかど)がどのようになっているかも確認して損はないでしょう。
採用者にとってのワークライフバランス
次に、採用者目線でのワークライフバランスです。
ワークライフバランスは転職者の一大関心ごとの一つで、これを疎かにしては優秀な人材の獲得は困難です。
採用マーケットで他社に遅れを取らないように以下に情報を紹介していきます。
良いワークライフバランスは、採用にどの程度有利か
良いワークライフバランスは、今や優秀な人材採用において満たしていて当然のスタートラインになっているため、”あれば有利”ではなく、”なければ不利”です。
逆に言えば、今ワークライフバランスが良くない、またはワークライフバランスの良さをきちんと休職者に伝えられていない場合は、採用の質において伸び代があると言えます。実際に私が求職者の方にポジションの紹介をしていて、ワークライフバランスのアピールがしっかりできている企業とそうでない企業で、応募者の人数が段違いです。また、ワークライフバランスが良い(アピールができている)企業の方には、スキルフィット的に見てより好ましい方が応募しています。
人によってキャリアに求めるものが異なるため、高給などワークライフバランスとトレードオフできるものがない限り(あっても最近ではワークライフバランスを重視する人が増えていますが)良いワークライフバランスは採用において必須要件になっています。
どのような制度でワークライフバランスを向上させるか
良いワークライフバランスだけではスタートラインに立てるに過ぎない、と書きましたが、過剰な残業をなくす以外にも他の採用企業から頭一つ抜けるために何かできることはないでしょうか。
一つ考えられるのは、時短です。
コロナによるパンデミックが起こったことにより、働き方に柔軟性を持った企業が増えてきましたが、まだ時短勤務を正社員に認める企業は少数派です。
子育てなど家族の事情により時短勤務が必須条件で転職活動をしている方は採用企業の想像以上に多く、その中にはハイスキルな人材も多く含まれます。正社員に時短を認める少数企業に自らがなることによって、採用競争の中で容易に一歩抜きん出ることが可能です。
次に、フレックス / スーパーフレックスです。
フレックスタイムは皆さんご存知かと思うので、説明は割愛します。
スーパフレックスとは、フレックス制度からコアタイムをなくしたものです。例えば、一週間の勤務時間が40時間と設定されている場合、週に40時間以上勤務すればどの日、どの時間に働いても良いという勤務形態です。
時短以上に制度採用が難しいのが難点ですが、それはスーパーフレックスを取り入れいている企業が少ないということの裏返しなので、他社との差別化による優秀な人材への訴求効果が期待できます。
※NewsPicksやSPEEDAを提供しているUzabaseが導入企業として有名です。
他にも、在宅勤務制度、(通勤時間分が浮くため、ワークライフバランスの向上につながる)や、育児・介護休暇制度、労働基準法で定められている以上の有給休暇付与なども効果的です。
自社のワークライフバランスを求職者にどう伝えるか
次に、ワークライフバランスをどうやって求職者にアピールするかです。制度上良いワークライフバランスを誇っていても、それが採用ターゲットに伝わっていないのはもったいないです。
ワークライフバランスのアピールに成功している企業と、改善の余地の多い企業のサンプルを日々多く見てきて感じる留意点をご紹介します。
在籍社員の実例
在籍している社員がどのように働いているかのイメージを伝えることは非常に有効です。一週間の勤務時間例や、休暇取得の仕方などを紹介することで、あなたの会社への応募者が入社後を想像しやすくなります。育児などが必要な社員の方を例に取ることも効果的です。
残業時間
採用職種におけるおおよその残業時間を出し、採用ターゲットに伝えることをお勧めします。残業時間は、時期や会社の状態などによって変化するため、一概に言えないのは自明ですが、目安の時間を出さないと怪しむ転職者もいます。
選考中候補者への連絡、面接設定時間
選考中の候補者に遅い時間にメールを送ったり、面接を設定したりするのは、「こんな遅くまで仕事をやっている」という印象を与えるため、注意が必要です。
フレックスタイムなどで遅く仕事を始めて遅く終わっているから、などの理由があるときはそれとなく伝えて安心させないと、ブラック企業だと思われる可能性があります。
フレックスや、リモート勤務制度などの利用
フレックスやリモート勤務などの制度があっても利用できなくては意味がありません。これらの利用可否が曖昧で、入社後上司と相談、というケースが散見されます。こうしたやり方は採用候補者に懸念を抱かせるため、制度が使えるかどうかははっきりとさせておく必要があります。
まとめ
- 企業のワークライフバランスを測るには、業界、個々の会社単位でなく、応募先部署も気に留める必要がある。
- ワークライフバランスは、労働時間、休日日数だけでなく、求められるパフォーマンスとのバランスや、休日の質なども考慮した方が良い。
- ワークライフバランスの良さは採用活動において必須要件になっている。
- 自社が良いワークライフバランスであってもそれを上手く採用ターゲットに伝える必要がある。