私の市場価値はいくら?【よくある質問 – 法務・コンプライアンス職限定】

キャリア 転職

転職エージェントとしてお話する中で、「私の市場価値はいくらですか?」と聞かれることがよくあります。

非常に答えづらい質問です。
答えづらいのは、相手に値をつけることになるからではありません。みなさんの考える「市場価値」と、実際の転職市場での「市場価値」には乖離があり、下手に答えると誤解を生じそうだからです。

そこで今回は、転職市場での市場価値をテーマとしました。

  1. 市場価値とは
  2. 市場価値のよくある誤解
  3. 資格
    語学力
    学歴
    マネジメント経験
    留学経験

  4. 市場価値の上げ方
  5. 先行者メリットを狙う
    穴場を狙う
    言語を習得する
    法曹資格を取得する

市場価値とは

広辞苑によると、市場価値とは、需要と供給が一致した時の市場価格と同義、つまり、自由経済(現実には多少の規制はありますが)において需給バランスの中で決定される価格ということのようです。
当然雇用市場においてもこの原則は働いています。しかし、マーケットを俯瞰して多数の雇用例や人様の経験・給与を知ることは、個人には難しいため、何に市場価値があり、何にないかを判断するのは案外難しいものです。

まずは、市場価値に影響する要素についてのよくある誤解を挙げていきます。
尚、今回の記事内での市場価値は飽くまでも金銭的なことで、仕事からの満足感や心の豊かさに繋がる要素とは関係ありません。以下で紹介する「思ったよりも市場価値(金銭)に繋がらない」要素は、金銭以外の価値に繋がることもあるという点について予めご了承ください。

市場価値のよくある誤解

市場価値について誤解の生じやすい五つの要素について触れていきます。

資格

資格は市場価値を左右する要素ですが、希望業務との相性や、実務経験との組み合わせ、取得タイミングを見誤ると努力は水の泡になります。
これらの見極めを正確に行えていない例は意外と少なくありません。

希望業務との相性

取得難易度が高い資格を有している = 市場価値が高い、というのはよくある誤謬です。ニアリーイコールではありますが、希望業務との相性を考える必要があります。

例えば、企業法務をやられている方で司法書士資格の取得を目指される方とお話したことがあります。理由は法律の難関資格を取って市場価値を上げ、転職するためとのことでした。
しかし、不動産登記や商業登記の必要が頻繁に生じる法務の仕事(非常に少数)でない限りあまり市場価値に影響はなく、法務転職市場一般の括りでいえば、取得難易度に対してのリターンが低く、「コスパ」が悪いと言えます。

弁護士資格であればどのようなタイプの法務の仕事に対しても市場価値爆上げになりますが、以下の実務経験の有無や取得タイミングを誤ると、やはり努力に対しての見返りは小さくなります。

実務経験との組み合わせ

資格取得がすべてを解決するソリューションになると思っている方は少なくありません。現状への不満(現職での待遇、人間関係、やりがいなど)が、試験勉強→合格という分かりやすいプロセスによって解消されるイメージが魅力的なのは理由の一つでしょう。(資格スクールの営業努力もあるかもしれませんが)

しかし、社会人になったら何はともあれ実務経験が重要です。「実務経験なしでビジネス実務法務検定1級を持っている人」と、「法務実務経験1年で資格なしの人」であれば、十中八九後者が採用されます。
資格がまったく無駄とは言いませんが、多くの方が思われているほど市場価値上昇と連動しないことが多い、ということは心に留めておいて損はないと思います。

取得タイミング

資格取得によって市場価値を上げたいのであれば、取得タイミングも重要です。
早い話、なるべく若いうちに取る必要があります。
転職市場において、資格とはポテンシャルとやる気を示すものという意味合いが強く、あまりシニアになってからだと、資格のアピールが難しくなります。シニアで評価されるのは基本的に実務経験のみだからです。

独占業務を行うことのできる資格についてもある程度同じことが言え、若いうちに取得しないと雇用されるチャンスは激減します。

語学力

語学も資格と並び、「自分の市場価値を高めるために」取り組まれている方の多い分野です。
ただし、以下の点を押さえていないと、せっかく勉強しても思ったように評価されないかもしれません。

学習言語の種類

当然ながら、仕事に直結する言語を選択する必要があります。
日本国内で法務の仕事をするにあたり、需要のある言語の順番は、日本語 >>>> 英語 >>> 中国語(北京語) >>>>> 韓国語 >>>>>>> その他です。

上記以外の言語が転職市場で評価されることはあまり期待しない方が良いでしょう。

コアスキル

以前の記事でも書いたように英語(他言語も)はコアスキルのブースターでしかありません。コアスキルとはここでは、法務・コンプライアンスの仕事のスキルのことです。言語の学習に時間を割きすぎ、核となるスキルの向上がおろそかになると、非常にもったいないことになります。

コアスキル(法務・コンプライアンス)× 言語スキル = 市場価値です。どちらもバランスよく鍛えましょう。

使用経験

語学力をアピールする際に、試験の点数以外にあった方がよいのが実務経験です。
言語自体の上手さとその言語で仕事ができるかは、必ずしもイコールではありません。このため、その言語を使用して、問題なく業務を遂行した経験がある、と伝えることで採用側を安心させられます。

学歴

学歴は、市場価値に直結します。しかし、年齢を重ねるほど学歴の持つ意味合いは薄くなっていきます。市場価値を測る際に大多数が、実務経験 >>> 学歴と見るからです。ジュニアな内は実務経験が浅いため、ポテンシャル(=学歴など)で評価するしかなく、学歴と市場価値の連動性が高いですが、シニアになると、学歴のみでの勝負はキツくなってきます。

また、社会人になってから修士などの学位取得をし、学歴を上げようとするケースは注意が必要です。30代後半だけど名門大学で学位を取る、というようなことは素晴らしいですが、目的が「高学歴になって市場価値を上げる」であったら得策とは言えません。

※法曹資格取得のために学位を取るのであれば話は違いますが、それでもなるべくキャリアの早い段階で挑戦した方が良いのは変わりません。

マネジメント経験

ピープルマネジメント経験の価値も誤解されがちです。ないよりもあった方がよいのは間違いありませんが、近年の組織のフラット化や、プレイングマネージャーへのニーズの高まりから、管理職ポジションは減る傾向にあります。特に「マネジメントオンリー」のポジションは非常に少なく、下手に部下を多く持つポジションに就くことは、将来転職の必要に迫られた時のリスクにもなり得ます。

以前、某大手企業の法務部長の転職をサポートした際にも、部下の人数が多く、長らくマネジメントのみしていたことがネックになり、かなり条件を落としてもなかなか内定に至りませんでした。

自身の市場価値を高めるためにマネジメント経験を積もうと考えている方は、ご注意ください。

留学経験

留学経験をアピールに使われる方は多いですが、採用側からの評価に繋げるためには注意が必要です。
まず、学位取得を伴わない留学は評価には直結しません。語学留学は、語学習得による市場価値向上を望めますが、同時に留学期間はキャリアから離れた「ブランク」と見なされる傾向にあります。あまり長期間留学すると、かえってマイナスになることもあると、頭に入れておくとよいでしょう。

ただ、学位を取得しない留学であろうと、得られる経験が仕事に活きることはあると思います。例えば、多文化環境での立ち回りなどは就業環境によっては大きなプラスです。しかし、それらが評価されるのは入社後の話で、入社前の選考段階で評価されることは稀であると考えておいた方が無難です。

ここより、市場価値を上げるにはどのようなことを意識すると良いかについて紹介していきます。

市場価値の上げ方

市場価値の上げ方は、個々の状況によりケースバイケースですが、最大公約数的なものは以下の通りです。

先行者メリットを狙う

需要が伸び始めている、又はこれから伸びる分野のスキルを伸ばすことで市場価値は容易に上がります。
どの分野が伸びるかを予測するのは難しいと感じるかもしれませんが、ある程度伸びてきてから見極めれば、低リスクで先行者メリットを享受できます。

最近で言えば、Fin-techや、Data Privacyなどが挙げられるでしょうか。どちらも既に先駆者になるには遅いですが、まだこれらの需要を満たせる人材が十分におらず、需要は絶賛増加中なので、前述の「低リスクで、先行者メリットを享受できる」フェーズと言えるでしょう。

法務・コンプライアンスの方は、職業柄かリスクを見極めすぎてチャンスを掴めないケースが多いように思います。キャリアビルディングに成功されてきた方たちを見ると、石橋を叩きすぎて壊してしまう前に、チャンスの神様の前髪を掴むアクションを起こしている方たちであることがわかります。

穴場を狙う

冒頭でも書いたように、市場価値は、需給のバランスにより決定されます。ニーズが高い分野に強くなれば良いのですが、通常そうした領域は大勢が狙っているため、競合が激しく、相対的に市場価値を上げるのは容易ではありません。
しかし、中にはニーズが高いことを認識されていない「穴場」があります。

真っ先に思い浮かぶのは、投資運用会社のコンプライアンスです。(過去記事オイシイ仕事は何?参照)

とは言え、残念ながらこうした分野は多くないという点は、予め頭に入れておく必要があります。

言語を習得する

上記で触れた点に気をつけて語学を身につければ市場価値を上げることに繋がります。
端的に言うと、基本的には英語、中国語(特に既に英語ができる場合)を学び、同時にコアとなる法務・コンプライアンススキルの向上を疎かにせず、なるべく実務で使うことです。

以前弁護士の方へ「法務と英語力」をテーマにプレゼンをした際、30職種程を対象にビジネスレベルで英語を使える方の割合を調べたことがあります。法務・コンプライアンス領域は、ビリから二番目でした。
それに対し、英語を要件とする募集は非常に多いため、英語を習得するとチャンスが広がります。

法曹資格を取得する

日本弁護士資格、又は海外弁護士資格を取ることはみなさんの市場価値の向上に繋がります。ミドルレベル以降の法務募集では「なんらかの法曹資格が必須」というものが増え、それらは給与的にも魅力的なポジションであることが多いです。こうした場合は、最初に法曹資格の有無で振り分けられるため、いくら良い人材でもちゃんと検討してもらえるステージまでいけないことになります。
このようなもったいない状況を避けるために法曹資格を持っていると安心です。

自分の市場での「金銭的な」評価は、非常に誤解しやすく、市場価値を上げるための努力も方向性を誤りやすいものです。
今回の記事が理解の一助になれば幸いです。