弁護士キャリアの多様化【コンサルティング編】
コンサルティングに興味はありませんか?
LinkedInや、その他転職サイトに情報を登録している方は一度ならず聞かれたことがあるのではないでしょうか?
コンサルは、弁護士(に限らず)がリクルーターからよく紹介される業種のTop3には入るはずです。現に私が初めてお話する弁護士の方で「コンサルは結構です」と飽き飽きしているという感じで言われる方は少なくありません。
確かに、コンサルティング業界は、「よくわかっていないエージェント」がとりあえず紹介しがちな業種であることは否めません。しかし、その実態を理解せずして選択肢から外すのはもったいないとも思います。
今回は、以前の記事弁護士キャリアの多様化【コンプライアンス編】に続き、コンサルティング編をご紹介します。
- なぜコンサルの紹介が多い?
- コンサルティングの仕事内容
- コンサルティング職の種類
- コンサルティング職の魅力
- コンサルティング職の働き方
- コンサルティング職に就くために必要なもの
- コンサルティング職の今後・キャリアパス
- まとめ
なぜコンサルの紹介が多い?
転職エージェントからの職業紹介で、なぜコンサルが多いのかは、以下の3つでだいたい説明がつきます。
以下に詳しく見ていきます。
募集が多い
コンサルの募集は非常に多いため、必然的に紹介される機会も多くなっています。
ここ数年、コンサルティングファームのパートナーから、「業績は好調だが、人材不足で、取ろうと思えば取れる案件もあえて取らない」と聞くことが多くなりました。
離職率は、担当領域によって違いますが、後述する弁護士に親和性の高い種類のコンサルにおいては、インハウスロイヤーの離職率とあまり変わりません。
当てはまる人が多い
社会人経験10年未満のコンサル職は、コンサルの直接経験を問わないことも少なくありません。ポテンシャル(一般的な意味で、優秀そうな人材であるか)や、広い意味での関連経験(ガバナンスを見るコンサルであれば、ガバナンス関連)が要件なので、該当者が多くなります。
ただ、これは飽くまでも書類上での判断においての話で、コンサルへの適正は、話してみないとわからないことが普通です。
コンサル専門のエージェントが多い
コンサル専門のエージェントが多いのも、皆さんが「コンサルの紹介が多い」と思われる一因です。
前述の通りコンサルは採用数が非常に多いため、コンサル専門のエージェントも比例して増加してきました。
多様な職種に対応するエージェント会社の中でコンサル専門で紹介するチームもあれば、コンサルのみを専門に紹介する会社もあります。
玉石混淆のエージェントを見分けるのは、ただでさえ大変なのに、コンサル系のエージェントは母数が多いので困難を極めます。
コンサルティングの仕事内容
コンサルティングの仕事内容は、法律事務所で勤務されている(されていた)弁護士の方にとってはイメージしやすいと思います。
コンサルは、所謂プロフェッショナルファームの一つで、法律事務所と同様に「知識や技術自体を商品として、クライアント企業にサービスを提供すること」を事業としている点で共通します。
違いは「商品」自体です。法律事務所は、商品が法律に関わるものであるのに対し、コンサルファームは、異なる商品が何十種類とあります。
また、コンサルファームに在籍している弁護士の方によると、「自分の行ったコンサルテーション(法律事務所も「法律コンサルテーション」を行なっている)の影響がより見やすいのはコンサルファームの方であると言う声が多いため、この点も法律事務所との違いに挙げられるかもしれません。
どちらが優れているか、という話ではりませんが、とっかかりとしては、上記のように単純化して考えると良いと思います。
コンサルティング職の種類
コンサルの種類は無数にあります。経営、戦略、人事、ファイナンス、テクノロジー・・・、さらにこれらの下にも細分化された分野があり、全てを把握するのは困難を極めます。
とは言え、大多数の弁護士は、これまでの経験と親和性があるForensic、コンプライアンス、ガバナンス関連に行かれます。
これらは、法律の勘所、規制の知識などがダイレクトに活かせるため、「入っていきやすい」分野です。また、クライアントやステークホルダーと元々繋がりがある場合もあるため、理にかなった選択肢と言えるでしょう。
一方、戦略など、法律家である必要性が必ずしもない分野にいかれる方もいらっしゃいます。こうした場合は、自分が法律家であるというということは一旦忘れ、飽くまでもポテンシャルを考慮されての入社であるという意識で一から努力をする必要があります。
弁護士資格があるから、〇〇を選ぶべき、という考えは捨てて、まずは何をやりたいのかをベースに検討し始めるのが自分の可能性を狭めないキャリア構築の秘訣です。
コンサルティング職の魅力
様々なクライアント企業の多様な課題を解決するコンサルティング職の魅力は、なんと言っても積むことのできる経験の広さです。
これは「クライアント」が一社で、業務範囲が法務(コンプライアンスや、リスクなども含まれることあり)のみであるインハウスロイヤーには経験できません。法律事務所も多くのクライアントを持っていますが、業務範囲の広さという点では、コンサルファームに軍配が上がるのではないでしょうか。
もちろん、コンサルファームでもチームが細分化され、自分の担当範囲は限られます。しかし、他チームとの連携や異動なども考えると、コンサルで得られる経験範囲は、他業界を凌駕します。
また、弁護士ならではの優位性もあります。
それは、他者との差別化です。対象となる「他者」には「他の弁護士」と「他のコンサル」の二種類あります。
他の弁護士との差別化
2005年の司法試験制度の改正により弁護士の人数が増加したのはもちろんのこと、インハウス法務やコンプライアンスなど、法律事務所以外のキャリアを選択する弁護士が出てきたため、他の弁護士との差別化を図ることが難しくなりました。「人と違えばなんでもいい」と言う気はありませんが、意味のある差別化はキャリア形成において有効です。コンサルになる弁護士は全体から見るとまだ少数であるため、差別化手段として、検討の価値が大だと思います。
弁護士人数の推移
※弁護士白書 2020年版よりグラフ作成。
他コンサルとの差別化
弁護士は、他のコンサルとの差別化も比較的容易です。前述の通り、まだ弁護士がコンサルファームに入るケースは多くないため、弁護士資格を持ったコンサルは嫌でも目立ちます。
実際に弁護士資格を持ったコンサルの方数人から聞いた話ですが、クライアントからの指名も入りやすく、「ブルーオーシャン」で仕事ができるようです。
さらに、ファームとして出す資料に弁護士の名前を入れたい場合、あなたの名前を使い、その分を自分の売り上げに加算する交渉も可能です。
弁護士資格を上手く利用することで、コンサルでのキャリア構築は非常にスムーズなものになるでしょう。
コンサルティング職の働き方
コンサルは長時間労働、というイメージをお持ちではありませんか?
否定はしませんが、もしかしたらあなたのイメージよりもワークライフバランスは良いかもしれません。
実際にコンサルファームで活躍されている弁護士の方に聞くと、「法律事務所とインハウスの中間」という回答が返ってくることが多くあります。
5年前に大手広告代理店の長時間勤務が引き起こした悲劇以降、コンサル各社はワークライフバランスに気遣うようになりました。
チームや案件によってばらつきはありますが、少なくとも弁護士がよく選ぶForensic、コンプライアンス、ガバナンス関連あたりのプラクティスでは、異常な長時間労働をしている傾向はあまり見られません。
コンサルティング職に就くために必要なもの
コンサルに求められるものは、素養は弁護士も弁護士以外も変わりません。
以下をご覧ください。
論理的思考能力
いわゆるロジカルシンキングです。コンサルの仕事は、クライアント企業の課題を解決することで、その解決方法は何通りもあり、ただ一つの答えというものはありません。
どのようにロジックを積み上げて、課題解決の道筋を立て、クライアントにコンサルテーションをしていくかを考えるための論理的思考能力が強く求められます。
選考過程でケーススタディを課されることもあります。
コミュニケーション能力
コンサルはプロジェクトごとにチームを作って働きます。また、当然クライアント対応もあるため、コミュニケーション能力が厳しく問われる仕事です。
ただ、話せればいいというわけではなく、相手に好印象を与えながら、必要な部分では相手に折れてもらうなど、高度のコミュニケーション能力が必要になります。
プレゼンテーション能力
コミュニケーション能力と若干かぶりますが、コンサル職は他の仕事以上に「自分の考えを相手にわかってもらう」ことが求めれます。プレゼン資料の作成能力ももちろんですが、それを「どう」伝えるかも問われます。
英語力
コンサルが抱える英語案件の割合はどんどん高くなっています。クライアントとのやりとり、海外オフィスなどからの情報収集、チームに日本語が流暢でないメンバーがいる、など、英語を使えないと関われる案件が限られ、自分の価値を十分に活かしきれません。
営業力(シニアレベルでの採用の場合)
コンサルは、法律事務所における弁護士と同じく営業職の側面があります。従って、シニアレベルでコンサルに入る場合は(または、後にシニアレベルに昇進した際は)営業力が重要になります。
当然営業の数字が昇進や昇給、ボーナスに反映されるため、一般的なインハウスロイヤーよりもアップサイドは狙いやすいと言えます。
私の知っている弁護士には、コンサルに入ったあと短期間で担当領域の売り上げを数倍にし、スピード出世した方もいらっしゃいます。
上記を押さえた上で、クライアントファーストの志向生があればコンサルへの適正が十二分と言えます。
コンサルティング職の今後・キャリアパス
コンサルキャリアで最初に考えられるのは、コンサル内でのキャリアアップ、即ちパートナーへの昇格です。これは弁護士に限ったキャリアパスではありませんが、私の見る限り、弁護士でコンサルになった方たちの昇進スピードは、平均を上回ります。
また、コンサルでの経験を活かして、一般企業へ転職する方も見受けられます。この場合多いのは、コンプライアンスやリスク分野です。コンサル経験を高く買う会社は少なくないので、経験を活かし、CCO,CRO,COOなどのc-suiteレベルポジションを狙うのもアリです。
いずれにしても、「弁護士でコンサル」はまだ比較的新しいキャリアパスです。他の弁護士との差別化になるのを活かし、クリエイティブに自分のキャリアを描くチャンスがあります。
このサイトで何度も繰り返しているように、他者との差別化に成功し、比較対象が少ないというのは、非常に大きいアドバンテージです。
まとめ
前の記事弁護士キャリアの多様化【コンプライアンス編】に続き、弁護士の「まだ一般的になっていないキャリア」についてご紹介しました。
コンサルティングは、法律事務所と同じ「プロフェッショナルファーム」のお仕事でありながら、クライアント先のビジネスを違う視点で見ることができます。領域も多岐に渡りますので、万人向けではないものの、知的探究心が強い弁護士の方に向いた仕事と言えます。
また、コンサルでの積むことのできる幅広い経験は、将来の選択肢を広げ、最近増えてきた「経営サイドに興味のある」弁護士の方にもお勧めです。
コンサルへのお誘いは多いかと思いますが、誘いが多い = 良い話ではないという等式は成り立たないため、今回の記事の内容を踏まえて自身の選択肢に入れるかどうかご検討していただけば幸いです。