【転職で損をしない】ハイスキル人材のための給与交渉術
給与交渉の戦略はお持ちですか?
最近転職先への給与交渉について立て続けに質問を受けました。
直接企業に応募され、内定に近づいたものの給与交渉の仕方がわからず、交渉に慣れている私に相談してくださったようです。
給与交渉は、「もっと高い給与をください」や「〇〇円じゃないといきません」で済むほど単純なものでなく、まだ転職リテラシーの低い日本では方法論が確立されていないように思います。
そこで、今回は転職時の給与交渉のやり方について記事を書くことにしました。
対象は、特定の分野で高い専門性を有し、企業のジョブ型雇用枠での選考対象となり得る方々です。本記事で紹介させていただく交渉法は、未経験転職などに馴染まない可能性が高いことを予めご了承ください。
- 給与交渉の準備
- 交渉の落とし所
- 給与交渉のタイミング
- どこまで交渉するか
- どうやって交渉するか
- 交渉における注意点
- 交渉を有利にする一番の材料
- まとめ
抽象から具体へ
競争を作る
視野を広く持つ
コミットする
控えめになる
給与交渉の準備
給与交渉の具体的なやり方に入る前に、準備について説明します。
やるべきことは二点、自分の市場価値の分析と希望給与の決定です。
市場価値の分析
簡単に思われるかもしれませんが、意外と見落としがちなのが需要と供給についての分析です。
どんなに高いスキルを持っていても需要がなかったり、同じことができる人が多ければ、当然あなたのスキルに高い値はつきません。
高いスキルを持っていたり、言語能力に優れていたり、難関資格を取得された方ほど、この点について見落としがちです。自分の努力に対して高い評価を下し、そこに金銭的な期待を寄せるのは、私も同様ですが、冷静且つ相対的に自分の市場価値を見定めることが給与交渉成功への近道です。
希望給与の決定
希望給与は、二つの数字を決める必要があります。
最低希望給与と、希望給与です。
最低希望給与は、本当に最低限その金額がないと困る数字を指します。
どんなに素晴らしい会社に行き、やりたいことをやれるとしても譲れない金額を設定しましょう。
次に一般的な希望給与です。
決めるコツは、現実的に望める範囲内で設定することです。自身のスキル、経験などから高望みし過ぎている数字をベースに交渉をすると十中八九失敗します。もし自分にとって現実的な数字がどれくらいなのかわからない場合は、現在年収から10 – 15%くらいのアップを目安にされることをお勧めします。(但し、同業界に限る)
希望給与は、会社や仕事内容によっても変わるのが普通です。まずは、特定のポジションに因らない希望給与をざっくりと決め、個々の応募の際にそのポジション用の希望給与を設定すると良いでしょう。また、面接などを通して、そのポジションに対する希望が変容することもあると思いますので、都度のアップデートが必要になります。
交渉の落とし所
提示される給与は個々の業界、会社、もっと言えば入社タイミングによっても大きく異なります。ここまでであなたは自分のおおよその希望給与を決めていると思いますが、応募先企業によって個別の交渉の落とし所を決める必要があります。
これには応募先企業が何に価値を置くか(スキル、人柄等)や、あなたに対していくら用意できるかといった情報が必要になります。
企業が価値を置くもの
多くの方は企業の求めるものをジョブディスクリプションから判断するかと思います。しかし、ジョブディスクリプションの内容を鵜呑みにすると判断を誤るかもしれません。
求める人柄、性格などと比べ、スキルや習熟度は、企業が採用活動を通して多くの気づきを経験する中で変容していくことがよく見受けられます。ジョブディスクリプションは飽くまでも参考にしながら、面接などのコミュニケーションを通して企業のニーズの把握に勤めるのが最善策です。
【参照記事】
機会損失をしないためのジョブディスクリプションの読み解き方
企業が用意できる金額
この小見出しを見て、多くの方が応募要項に書かれている想定給与を想像するのではないでしょうか。しかし、必要なのは企業が「あなたに対して」用意できる金額です。想定給与が1,000 〜 1,500万円だとしても、あなたに必ずしも1,500万円の内定が出るとも限りませんし、逆に上限よりも高い金額で内定が出るかもしれません。
内定金額はあなたの絶対的価値を反映するわけではありません。スタートアップで高い給与が用意できない、スキル需給のアンマッチ、人物面の相性、他の候補者の存在など、様々な要因が絡んで金額が決定されます。
これら要素を踏まえて企業があなたに対して用意できる金額の上限を見極めるには、一度きりの対話ではなく、選考を通しての継続的な対話が必要です。選考が進む過程で、暫定的な希望給与(あなたが思うコンサバな数字と、応募先企業が払えるであろう金額よりも少しだけ上の数字の二つを使うことが効果的です。)や、あなたが応募している他企業(給与を交渉する上では、複数の企業に応募されることをお勧めします。理由は後述します)が検討している数字をさりげなく出しながら企業側の温度感を見ていき、最終面接が終わる時点で、交渉の落とし所のあたりをつけておけるようにしましょう。
給与交渉のタイミング
給与交渉を始めるべきタイミングは、一次面接終了後です。
一度も会ったことのない段階では、些細なことで見送られる傾向があるため、面接前の段階で強気に交渉するべきではありません。
通常、選考過程が進むほど採用側のあなたを失いたくないという気持ちが強くなっていきます。こうなると、あなたに多少の懸念を持ったとしてもまずは話し合いたいという思考回路になるため、交渉がしやすくなります。
よって、交渉は一次面接終了段階からゆっくり緩めに始め、徐々に強度を上げていくと良いでしょう。
選考過程においてあなたの魅力、価値を見せ、「この人がどうしても欲しい」と思わせてからが交渉本番です。
どこまで交渉するか
どこまで自分に有利な条件で推し進めるかは給与に限らず、交渉ごとにつきまとう永遠の課題です。
人材不足、特に高スキル人材や、バイリンガルタレントが枯渇している日本の転職マーケットは確実に売り手市場です。しかし、強気に出過ぎると結果的に損をするケースが多く見られます。
交渉のゴールは一方的に勝つことではありません。あなたと交渉相手、お互いがwin-winになる一番の落とし所に近づけるのが目的です。あなたが一方的に得する条件に向かって話を進めようとしたり、間違ったタイミングで交渉をすると相手は交渉のテーブルから降りる可能性が高いでしょう。
また、押しを強くし過ぎて相手の感情を害しないようにも注意をしなければなりません。感情的になった交渉相手は、自分が損をしてでもあなたを困らせるように動いてくるので、結果あなたの交渉の失敗につながります。
どうやって交渉するか
ここでは細かい交渉ポイントについてお話していきます。
抽象から具体へ
交渉の余地はなるべく後半に残しておくべきです。
前述の通り、企業は選考の後半に向けて、あなたを欲しい気持ちが高ぶっていきます。このため、選考前半であまりに具体的な交渉(数字などの)に入ってしまうと、お見送りになったり、得られたはずの待遇よりも低くなる危険性があります。
選考前半では、希望は抽象的に、そしてプロセスが進むに従い、具体的にしていくと良いでしょう。
例えば、選考前半では、希望給与は広めのレンジ指定(1,200 – 1,500万円など)にしておき、選考が進む過程で、企業の自分への興味、割くことのできる予算、他の候補者の状況(エージェントを利用していない場合は確認が難しいかもしれませんが)などを総合的に判断し、最初に話したレンジを狭くしていった上で、最終的に両者の最大公約数を目指していくというやり方が効果的です。
競争を作る
複数社に応募して競合を作ることも効果的です。これには2つの利点があります。
1つ目は、他社で検討されている給与が交渉材料になることです。家電量販店ではありませんが、他社から1円でも高い金額で検討されている場合は、それを応募先企業に伝えることで、給与交渉を優位に進められる可能性があります。
2つ目は、あなたがより魅力的になることです。他人が欲しいものは自分も欲しくなるものです。他社(特に同業他社)から高い評価を得ていると、あなたの魅力度がアップし、より良い条件を引き出すことができるかもしれません。
視野を広く持つ
多くの場合、給与交渉において、最初に目をつけるのは基本給だと思います。
しかし、基本給は一番交渉で上がりづらいポイント(企業にとって固定費になるため、承認を取るのが困難)でもあります。
そこで、もしこれ以上基本給の交渉が難しいと感じた場合は、それ以外の条件に目を向けましょう。
代表的なのが、サインオンボーナスです。サイオンボーナスとは「入社を決めた場合に通常のボーナスとは別に支払われるボーナス」です。サインオンボーナスの社内承認を取ることも簡単ではありませんが、基本給を上げることに比べたら容易です。
他の交渉ポイントについても挙げていきます。
満額ボーナス – 入社時期に限らず、満額ボーナスが支払われる。
ボーナス額確約 – ボーナスがパフォーマンス連動の会社に限る。高パフォーマンスを得たときに出るボーナス額を入社後最初のボーナスのみ保証。
ボーナスレート(営業職のみ) – 売上連動のボーナスに掛けられるレートを通常よりも高いレートにする。
ストックオプション – スタートアップでまだストックオプションが付与される会社の場合、割当率を上げる。
手当 – 資格手当など。
昇進ターゲット設定 – 昇進に向けた具体的なゴール設定を設け、入社後比較的早い段階で上の職位につくことができるようにする。
たくさん書きましたが、上記全てについて交渉をするのは逆効果なのでお気をつけください。
コミットする
入社を確約した上で給与交渉をするのも効果的です。
希望の数字を出しながら、その数字が出ても「検討する」という方がいます。しかしこれは交渉において得策ではありません。相手に何か求めるときは、それに応じた場合どのようなベネフィットがあるか相手に明確に提示する必要があります。その見返りが「検討」では、交渉相手のモチベーションを刺激することはできないでしょう。
具体的な条件を提示し、その数字であれば入社すると確約すれば、上記に比べて段違いの交渉力を得ることができます。応募先企業に対して強い興味を持たれているのであれば、試してみることをオススメします。
控えめになる
給与交渉に慣れていない方は相手に自分の希望が伝わっているか心配になり、必要以上に数字の話を出してしまいます。または、強気に出るのが交渉だ、と勘違いし、ガンガンいき過ぎてしまいます。
お金は心理学的に人の注意を強く惹きつけるものです。正しい伝え方をしているのであれば、少し言っただけであなたの思っている以上に相手に伝わっています。
お金の話ばかりする人、という印象にならないように、相手の企業、ポジションへの興味、自分のキャリアへの情熱について話すことに主軸を置き、お金の話の頻度と強度は控えめにしましょう。
交渉における注意点
交渉においてよくある間違いについて3点解説します。
現在年収
現在年収は、正直に答えましょう。
多くの企業が現在年収の証明を求めるため、虚偽の申告はすぐに暴かれます。
応募段階では、細かい数字まで把握してなくても大丈夫ですが、実際の金額とあまりにも乖離しているとよくありません。
また、給与の内訳(基本給、ボーナス、その他手当など)も明確にすると非常に親切です。
多くの方が陥りがちな過ちは、海外駐在手当(expat packages)を交渉のベースとなる現在年収に含めることです。
海外駐在中の手当は一時的なものなので、現在給与を問われた時点で海外駐在をしている場合は、手当込みの駐在中の収入と、手当抜きの日本にいる場合の収入を申告しましょう。
他にも、賃貸物件の契約者を会社にし、税金メリットを受けている場合、それを金額に置き換えて自分の収入に入れるべきではありません。こうした特殊なベネフィットがある場合は収入とは分けて伝えましょう。
希望額設定
よくある間違いというか勘違いですが、希望金額を伝えることは必ずしもオファー金額の上限値を設けることとは限りません。
言い方を変えると、希望金額よりも上のオファー金額が出ることはあり得ます。
会社によっては、控えめな希望を伝えることで逆に高い金額を出すことすらあるので、給与交渉は奥が深いです。
給与交渉の余地
中には給与交渉がまったくできない会社もあります。
それは、給与テーブルが年齢、又は経験年数などによって完全に決まっている場合です。
今回は「ハイスキルな方」のための給与交渉のため、該当企業は非常に少ないですが、そうした企業に交渉をすることは有害無益です。
交渉を有利にする一番の材料
面接を必死でやること。
交渉において一番重要なのは、テクニックではなく自分の立ち位置です。詰まるところ、相手に気に入られていれば交渉をスムーズに進められます。
しかし、残念ながら売り手市場の転職マーケットの上に胡座をかき、面接準備、及び本番に真剣に取り組まない方が少なくありません。
特に、その会社、仕事への興味、情熱などの「小手先でない部分」の重要性は、一般的に考えられている以上に重要です。
人材不足とは言え、人気のポジションには良い候補者が集まります。求める条件に向かって交渉する上で、あなたがそれに相応しい人物であるということを見せていくことは、どんな「交渉テクニック」よりも大切です。ここまでで書いてきたことはなんだったのかと思われそうですが、面接をしっかりし、自分を優位な立ち位置に置いた上で、前述の交渉tipsを参考にしていただければその効果は何倍にもなるでしょう。
面接対策は以下の記事をご参照ください。
失敗しない面接対策 – 情報収集編
失敗しない面接対策 – 内容対策編
まとめ
給与交渉のコツを単純化すると、1.面接をしっかりやる、2.企業のニーズとその企業が自分に対していくら払えるか予測を立てる、3.給与交渉を1次面接終了以降に始める、4.選考課程が進むにつれ、交渉強度を弱 -> 強にしていく、5.嘘をつかない。となります。
我々エージェント(第三者)を介する交渉と、ご本人でされる交渉は勝手が随分違うため、今回の記事は書くのには苦労しました。
苦労の甲斐もあり、、私も晴れて「ハイスキル人材」となった暁には使いたいと思うものばかりなので、どうぞご活用ください。
ただし、給与 = 期待値ですので、どうぞご自分の首を絞めない範囲で交渉に励んでください。
最後にですが、給与アップは、転職時の専売特許ではありません。以下の記事を参考にして、ぜひ転職なしでの給与増を狙っていただければと思います。
給与を上げたい【転職に頼らずできることをやる】
<2022/10/18追記>
新たにエージェントを利用しての給与交渉についても記事を書きました。よろしければ併せてご参照ください。