【採用者向け】法務人材マーケット – 2021年7月関東

採用

2021年も下半期に入ったため、私の担当する領域のひとつである法務の最新タレントマーケットと、採用のtipsをご紹介します。

  1. 概況
  2. 優秀な人材の求めるもの、興味・関心の傾向
  3. 法務人材
  4. 日本弁護士
    海外資格弁護士
    法曹資格のない法務人材

  5. まとめ

概況

遂に四度目の緊急事態宣言を数えながらも、コロナが理由で転職を見送る方は皆無です。一方、採用数はどんどん増えてきています。国内にある既存の企業(日系・外資)だけでなく、コロナ禍でしばらく少なくなっていた外資企業の日本進出も増え始め、採用競争は激化の傾向にあります。

人材獲得の難易度が上がる中、採用ポジションの重要性を理解していることを、言葉だけでなく目に見える待遇などで示すことがより必要になってきているように感じます。日本でも転職に抵抗がない人が増えているため、安く人材を得ようとすると、すぐに転職されたり、会社のレピュテーションが落ちたりして、結局高くつくはめになっている例も散見されます。

優秀な人材の求めるもの、興味・関心の傾向

法務領域の人材に限った話ではありませんが、企業・ポジションを選ぶ際の判断基準の多様化が著しく、好みがばらけてきているため、「ターゲット人材全員に選ばれるように」訴求するのは難しくなったように感じます。

こうなると、「自社ならではの」アピールポイントが重要になります。
とは言え、攻めのアピールに気を取られて、守りがおろそかになってはいけません。以下は「押さえておかないと選んでくれなくなる」減点対象ポイントです。

  1. 働き方の柔軟性 :
    在宅勤務(コロナが落ち着いた後も)や、フレックスタイム、副業の許可など。
  2. 社会性 :
    SDGs、CSRなどを通じ、自社の企業活動が社会にポジティブな影響を与えていること。
  3. 多様性 :
    人種、国籍、信条、性別、門地などによる待遇の差異がないこと。

また、人気業界については2月に記事を書いた時と変わらず、以下の順番で希望者が多くなっています。

IT (Fin-tech含む)>>製薬>>その他(製薬以外のメーカー、金融、コンサルなど)>>>>>小売、旅行関連

「希望者が多い = 欲しい人材が簡単に集まる」、ではないため、業界問わず自社に興味を持ってもらうための工夫が必要であることに変わりはありません。

ここまで、法務人材に限らない一般的な話をしましたが、以下より法務特化のご説明をします。

法務人材

日本弁護士、海外資格弁護士、法曹資格のない法務人材に分けてご説明します。

日本弁護士

「ビジネスサイドで働きたい」と希望する弁護士がさらに増え、インハウスロイヤーの人数は増加傾向です。
以下のグラフは今後さらに右肩上がりになっていくでしょう。

インハウスロイヤー数の推移 2001 – 2020年 (東京、第一、第二弁護士会合算)

出典:JILA “企業内弁護士数の推移”よりグラフ作成
https://jila.jp/wp/wp-content/themes/jila/pdf/transition.pdf

しかし、優秀な弁護士の獲得に成功しているのは、自社の売り込みに成功した限られた会社だけです。

日本弁護士採用のコツ

弁護士採用において、まず基本になるのは十分な給与です。
「うちはそんなに出せないから」は法曹資格採用においては通用しません。特にスタートアップだと、「給与でなく、事業内容や会社自体の魅力で勝負!」といきたくなるところですが、事業内容の魅力がトップクラス、更には将来性(資金確保がスタートアップの中でも頭抜けて順調)な某Med-Techスタートアップですら、「market competitive」な給与提示をしていたのにも関わらず、法務採用は楽勝ではありませんでした。

給与に加え、大事になるのは職責です。
弁護士の方が仕事を選ぶとき「ビジネスサイドの判断に関わる機会」を重視する傾向が強まっています。
より具体的に言えば「自社事業の今後について早い段階で共有され、それに対しての法的観点からのアドバイスをすることでビジネスサイドのdecision makingに関わる」ようなポジションが魅力的に映ります。ひたすら契約書(それも弁護士にとって簡単なもの)を審査することがメインの仕事は、大多数の弁護士にとって魅力的には映りません。

海外資格弁護士

2月に書いた記事とほとんど同じ内容ですが、コロナなどの影響で計画していた海外ロースクール留学を見送る人が増えているため、「資格保持者の人数は変わらず、採用ポジションが増える = 採用の難化」ということになりそうです。

また、日本人の海外資格保持者だけでなく、外国籍の海外資格保持者の確保も入国制限によって困難になり、既に国内で生活しているタレントの取り合いになっています。

法律への知見(日本法の専門でないとしても勘所があるため、日本法でも活躍できる方が多い)、外国語能力に加え、高いコミュニケーション能力、調整能力を保持していることの多い海外弁護士資格保持者は今後も更に需要が高まっていくでしょう。

海外資格弁護士採用のコツ

魅力ある給与提示や、ビジネスサイドへの影響力のある職務内容は日本弁護士採用のコツと同様ですが、以前も書いたように海外法曹資格を持つ人材は、「インターナショナルな環境」へのこだわりが強いという特徴があります。
多様な国籍の社員が活躍していたり、国をまたいだ仕事があるなどが自社に当てはまるのであればアピールに使わない手はありません。

法曹資格のない法務人材

日本、海外いずれかの資格の保有者が増えたことから始まった「法曹資格を持つ人材の優先採用」の傾向は若干の弱まりを見せているように思います。
その大きな理由が、「純粋に法律知識の深い人材」の採用から、「ビジネス感覚の強い法務人材(非常に高度な法律判断は外部法律事務所に相談する)」に舵を切る企業が続出したためです。

法律の知識だけみると弁護士に及ばなくても、事業の内容の把握が早い、ビジネスサイドの意図を組むのが得意、部門間の調整が上手い、など他のスキルも含めたバランス能力で非常に高い評価を受ける人材が存在します。

また、前回の人材マーケット情報でも書いたように、近年コンプライアンスやリスクマネジメント職を法務から採用することが増えてきており、法曹資格のない法務人材だから採用が容易、ということはありません。

法曹資格のない法務人材採用のコツ

採用の一番のポイントは、「法曹資格保持者との仕事内容・待遇の区別を慎むこと」と、「魅力的なキャリアパスの提示」です。
一つ目については、法曹資格を持った法務部員と持たない法務部員が混在している会社でよく聞く不満です。資格は大きなプラスなので、扱いに差異が出るのは避けられないことですが、あまりにあからさまであると、採用が困難になるだけでなく、人材の定着も望めません。

二つ目の魅力的なキャリアパスの提示も非常に重要です。法曹資格持たない法務人材にとっての課題の一つに、「法曹資格を持った人材とポジションを取り合っていく必要があること」があります。純粋契約法務以外の仕事(コンプライアンス、ガバナンス、コーポレートセクレタリー、プロジェクトマネジメントなど)をバランスよく職務内容に取り入れ、「今後も戦っていける」スキルを得る機会があることを上手くアピールに取り入れましょう。

まとめ

法務人材の採用は今まで以上に工夫が必要となってきています。
「market competitiveな」給与水準や、時流にあった就業環境(柔軟な働き方、個々人の違いを受け入れた上での公平性)、事業の社会性を前提とし、その上で自社の採用ターゲットにあった戦略を練り、適切な採用活動をすることが人材獲得成功への近道です。

法務においては、日本弁護士保有者は、事業に関する重要な意思決定への関与を、海外弁護士資格保有者は、インターナショナルな就業環境と職務を、法曹資格のない法務人材は、法曹資格保有者と競合するのに有用なスキル取得を求める傾向にあります。ぜひこれらを採用の「工夫」の参考にしてください。

この記事でおすすめしていることを全部行うのは現実的でないという企業も多いでしょう。しかし、できることはいくつかはあるはずで、何もやらないよりは少しでもやったほうが良い結果につながるに決まっています。

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近々コンプライアンスの人材マーケットについても記事を書く予定です。よろしければ当ブログをお気に入りに追加していただければ幸いです。