【採用企業向け記事】人材採用のトリセツ – 前編
貴社の採用活動は、順調ですか?
嫌味みたいな出だしですみません。おそらくこの質問にYesと答える企業は少ないでしょう。
「うちはベンチャーだから」
「有名じゃないから」
「高給が払えないから」
と思っている方も安心(?)してください。あなたが羨むあの企業も漏れなく採用には苦労しています。採用の苦労はすべての会社に共通の課題です。過去10年近くさまざまな業界を見てきて、自信を持って言い切れます。
そこで今回は、人材採用をテーマに記事を書くことにしました。
エージェントを使うケースと使わないケースで分けて紹介しますので、会社の事情に合わせてご参照ください。
エージェントか、自社採用か
エージェントは費用が掛かる、しかし自社で採用できるか自信がない。
このような葛藤がある方は多いのではないでしょうか?
元エージェントとしても、どちらが正解とは言い切れません。それぞれの特徴を以下に示しますので、判断材料にお使いください。
エージェント
費用が掛かる
ハイクラス・専門・バイリンガル人材だと、初年度年収の35 – 40%くらいが一般的です。人材不足の影響から上昇傾向にあり、高難度求人だと、100%という例すら見られます。
一部の例外を除き、成功報酬制であるため、無駄な費用が発生することはありません。
マーケット情報が得られる
毎日様々な会社の採用をお手伝いしている転職エージェントは、転職・人材市場に知悉しています。
エージェントと話すことで、採用活動に有用な情報が手に入ります。そして通常これには費用が掛かりません。
良い候補者の紹介がある
エージェントは一年を通して担当領域の人材との親睦を深めていることに加え、個人的な紹介を受けるため、自社で探すことのできなかった人材の紹介があります。
自社アピールのコンサルを受けられる
自社のアピールの仕方についてアドバイスを受けることができます。自分の会社のことは自分たちがよく知っている、というのはもっともですが、自社が外からどう見えているか、他社と比べてどのように思われているか、は外部の人の方が正確な意見を持っています。
多くの企業、人材とのつながりのある転職エージェントであれば、あなたの会社の効果的なアピール法を思いつくでしょう。
たくさん使うとハンドリングが大変
何社使っても掛かる金額は同じため、たくさんのエージェントを使う会社がありますが管理が煩雑になります。エージェント管理に割く人員もコストなので、もったいないです。
また、あまり多くのエージェントを使うと、同じ候補者が複数のエージェントから求人内容を聞くことになり、悪印象を与えます。
ナレッジの蓄積ができない
マーケット情報を聞けるとは言え、エージェントに任せると自社での採用ナレッジの蓄積はできません。
あたりはずれがある
一口に転職エージェントと言ってもあたりはずれがあります。
よく〇〇社(転職エージェント)はいい、× ×社は悪い、と言いますが、エージェントの良し悪しは会社よりも個人に依ります。大手だから安心、という考えも危険です。
はずれのエージェントは候補者に誤ったアプローチをするなどして、貴社のイメージを棄損することもあるため、はずれを使うくらいなら使わない方がマシ、と個人的には思っています。
自社採用
基本的に上記のエージェントで述べた内容の裏返しなので、それらの点は省きますが、その他には、以下のような特徴があります。
費用が抑えられる(例外あり)
言うまでもなく自社採用であれば、エージェントへの紹介料は発生しません。しかし、これには条件があり、やり方によっては、エージェント利用よりも高くつくことすらあります。
短期間で、自社webサイト、SNS、リファラル採用(社員紹介)などを通して採用できれば費用は少なく済みます。
一方、エン転職やビズリーチなどの媒体を使うと、料金が掛かります。採用が決まった時に掛かる料金はエージェントよりも安く設定されていますが、採用が長丁場になると自社の人件費も嵩み、結果高くつくことも珍しくありません。自社採用を試して、難しそうだったら、サンクコスト効果に陥らないうちに他の解決策を考えるのがセオリーです。
メッセージのコントロールができる
転職エージェントとして候補者へ会社紹介をしていると、他のエージェントから既に紹介を受けているという事態に遭遇することがあります。
その時、結構な確率で感じるのは、彼ら彼女らが聞いた情報が私の持っているものと違うということです。
採用企業がエージェントをマネージしきれず、新旧の情報が入り混じっている、どちらかのエージェントが勘違いしている、など色々な理由が考えられますが、いずれにしても候補者が持つあなたの会社へのイメージはポジティブなものにはならないでしょう。
人を介すると伝言ゲーム効果によって、メッセージの形は多少なりとも変質します。特に多くのエージェントを利用している場合、その傾向は顕著です。
不揃いな会社・ポジション紹介を複数人から聞くことは「なんだかよくわからないから応募は止めておこう」となり、本来得られたはずの候補者との接点が失われるリスクにつながります。メッセージ内容のコントロールは想像以上に重要なのです。自社で採用活動を賄えば、こうしたリスクを最小限に抑えられます。
最適解?
結局エージェントと自社採用のどちらが正解なのでしょうか?
ケースバイケースですが、一部シニアや秘匿性の高いポジションを除いて「一定期間自社採用を試みて、ダメならエージェントに依頼する」というやり方がオススメです。
実際にこの方法で採用活動をする会社は多くあり、費用削減と採用成功の両面で一定の成果が上がっています。
ただ、あまりに長く自社採用をしていたり、候補者に適切なアプローチをしていないと、エージェントにバトンタッチしても上手く採用できなくなります。
その理由を以下に解説します。
長く空いていて怪しい
長く募集しているポジションは敬遠されます。
「埋まらないには何か理由がある」と感じさせるからです。また「人気のないポジション」だと見なされるのも避けられる原因です。バンドワゴン効果の逆で、人気のないもの(または人気のないように見えるもの)には人が寄り付かなくなり、さらに不人気になるという悪循環が起こる。
希少性を感じない
候補者は、希少だと感じる求人に惹かれます。希少性の原理はどこでも見られますが、買い物などと比較して人生における影響力のより大きい転職では、より顕著です。
求人に希少性を感じる条件は、四つあります。
・情報ソースが限定されている – 採用にあたり声掛けをする人数を限定する。
・限定的に声掛けしている – 不特定多数にアプローチしていない。
・採用枠が少ない。
・募集期間が短い。
長く空いている求人は最後の部分に当てはまります。長く募集されていることで「欲しければいつでも得られる」という印象を与え、今行動を起こさなくてもよいという結論へ導きます。
NoをYesには変えられない
人は、一度出した結論を変更する時に起こる認知的不協和を避けるため、最初に出した結論に固執する傾向があります。
既にアプローチして「興味がない」などのNoの回答をした候補者へ再アプローチをしてYesの回答を引き出すのは困難です。
仮に最初のアプローチに至らないところがあり、その後に適切な会社・ポジション紹介を試み、客観的に見て候補者が応募を決めることが合理的判断だったとしても、結果は同じです。人は一度出した結論はなかなか変えない。このことを肝に銘じて、慎重に戦略を決めることが採用活動の鉄則です。
これらの原因で候補者へのアトラクトが難しくなっていると、サーチに時間を割くことを避ける転職エージェントが多くいます。また、有能なエージェントほど優先順位付けが上手いため、成約可能性の低いポジションに時間を使いません。結果ただでさえ難しいポジションなのに実力のないエージェントしか対応しなくなるという状況が生まれます。
後編ではエージェントを使うのに向いたポジションや企業の選定、自社採用のコツなどをご紹介する予定です。