【採用者向け】法務・コンプライアンス・リスク最新人材マーケット – 2021年2月関東

採用

昨年のコロナによる採用激減から、ニューノーマル(?)となり、採用マーケットが活況です。
去年(特に2020年上半期)とは打って変わり、採用が難しいマーケットに戻ってきました。今回は、この採用側に厳しい状況で少しでも人材獲得の助けになる情報を法務、コンプライアンス、リスクの三分野をメインにご紹介していきます。

  1. 概括
  2. コロナ前の採用と大きく異なる点
    転職者の希望業界

  3. 法務、コンプライアンス、リスク共通
  4. 法務
  5. 日本弁護士
    海外資格弁護士
    法曹資格のない法務人材

  6. コンプライアンス
  7. リスクマネジメント

概括

依然としてコロナによる有事と言える状況ですが、採用マーケットは以前の水準に戻ってきており、昨年の緊急事態宣言下(参照)と違い、平時とほとんど遜色のない採用数になりました。

採用側にとって幸運なことに、コロナや緊急事態宣言によって転職希望者数が減っているということはないので、採用エリアのトレンドと、候補者の考えていることを押さえて採用すれば、ちゃんと必要な人材を獲得することができます。

しかし、大体の点においてはコロナ前とあまり変わらない状況であるものの、勝手が違うポイントは押さえておいた方が良いでしょう。

コロナ前の採用と大きく異なる点

  • 海外からの人材採用が難しくなっている – ビザ取得が以前より困難になり、時間が掛かる傾向にあるため、エンジニアを中心とした近年増えている海外からの人材獲得が難しくなりました。
  • 採用approval取得に時間が掛かる – 特に外資は、普段よりもかなり時間が掛かることを覚悟する必要があります。
  • 採用をオンラインで判断しなければならない – 今はオンライン面接が主流です。最後まで一回も会わないということも珍しくありません。

こうした点を押さえ、準備することで質の良い採用ができます。私も先月優秀な新人を二人獲得できました。

次に人気業界です。

転職者の希望業界

コロナの影響で、コロナ禍でも安定している、または安定していると思われている業界に人気が集まっています。
具体的には、以下の通りです。

IT (Fin-tech含む)>>製薬>>その他(製薬以外のメーカー、金融、コンサルなど)>>>>>小売、旅行関連

ITは採用社数も多く競争が激しいため、自社がIT業界であるからと言って、採用が容易であるというわけではありません。
もし自社が転職者からの人気に期待できない場合は、どうやって売り込むかをよく考える必要があります。
概して自社のアピールポイントは各社似たようなものになりがちです。グローバル、風通しの良さ、急成長などの言葉は大多数の会社で使っており、他社との差別化にはなりません。この辺りの戦略は他社の売り込み方も知っているリクルーティング会社に相談すると良いと思います。

それでは、以下より法務、コンプライアンス、リスク採用に特化した解説をしていきます。

法務、コンプライアンス、リスクマネジメント共通

前述した通り現在の有効求人倍率は平時と遜色がありませんが、ことシニアレベル人材(年齢ではなくスキル)に関しては、コロナ前よりも多くマーケットにいらっしゃいます。シニアレベルの採用が減っているため、もし貴社がc-suiteの採用を考えているのであれば今が絶好の機会です。

またコロナに関係なく、転職者側はあなたの企業が本当に法務、コンプライアンス、リスクマネジメント機能を重視しているかをこれまで以上に厳しく見るようになってきています。これらの機能を”ないとまずいから”のような意識で採用しようとすると見透かされる可能性が高いです。言葉だけでなく給与など目に見える形でも示す必要があり、ベンチャー企業の待遇も上がってきているため、”うちはベンチャーだから条件面は弱いけど、将来性があるから”は通じなくなってきています。

Tech系など海外への参入が比較的容易な業種の採用が増えているため、限られた英語人材の採用競争は熱くなる一方で、それに対して英語人材の人数が急激に増えることはないため、日本語のできる外国籍人材の獲得への注目が集まっています。

法務

法務の章は、日本弁護士、海外資格弁護士、法曹資格のない法務人材に分けてご説明します。

日本弁護士

今まで以上に弁護士がインハウスマーケットに移ってきて、転職市場にいる法曹資格持ちの人材は増加傾向にあります。

インハウスロイヤー数の推移 2001 – 2020年 (東京、第一、第二弁護士会合算)

出典:JILA “企業内弁護士数の推移”よりグラフ作成
https://jila.jp/wp/wp-content/themes/jila/pdf/transition.pdf

しかし、弁護士採用の需要はそれ以上の勢いで高まってきているため、結局優秀な弁護士を採用することのできる企業は、高待遇、自社の売り込みの成功、運などによって成功しており、依然として採用が難しいマーケットであることは変わりありません。

日本弁護士採用のコツ

弁護士採用に成功している企業の特徴は、弁護士の価値を正当に認め、それを目に見える形で示すことのできる企業です。日本最難関の資格を通過するためには時間とお金の投資が必要で、更に司法試験に通らないかもしれないというリスクを背負います。これらに対して正当なリターンを給与などの定量的に判断できる形で用意することが何よりも重要です。高度な、知的好奇心の刺激される仕事内容があることも重要ですが、待遇が悪いと”自分が軽んじられている”印象を与えるため、感情的な判断をさせることになってしまいがちです。
また、中には弁護士業(自分の顧客へのサービス提供)を続けながら企業で働きたいという人も多いため、パートタイム、時短や、副業OKという条件も効果的です。こうした会社はまだ少ないため、採用した弁護士の退職引き留め効果もあります。以前私が弁護士を紹介したことのある大手欧州消費財は週3日5時間勤務 + 副業可で、優秀な弁護士の採用に成功し、約6年経った今も引き留めに成功しています。

更に、これらに加えて現在既に弁護士が在籍しているかも重要で、特に若手の弁護士は先輩企業弁護士のいない会社で働くことを希望しないケースが少なくありません。もし今弁護士が在籍していない場合は、経験豊富なシニア弁護士をターゲットにすると採用がスムーズにいきますし、今後若手の弁護士を採用するときにも有利になります。あとは、弁護士年会費の支給、弁護士会の活動への理解などもないと、弁護士採用は困難を極めるでしょう。

海外資格弁護士

ニューヨーク、カリフォルニア、英国、中国などの海外弁護士資格保有者は増加傾向にあります。しかし、コロナで留学を先送りにする人が増えているため、今後採用側に人材獲得が難しくなっていくかもしれません。現在は米国でのビザ取得の難化や、現地情勢の変化から、帰国を望む日本人米国弁護士資格保有者が増えていますが、一時的なものでしょう。

海外では法曹資格が法務部採用の必須条件になっていることも少なくなく、外資の日本オフィスでもこのルールを適用する企業が増えてきており、採用競争が加熱しています。
特に採用が増えているエネルギー系の海外プロジェクト法務では、英国弁護士資格保有者の採用に頭を悩まされている企業も少なくありません。

某超大手日系メーカーでシニアな米国人ロイヤーの採用があったのは、記憶に新しいです。徐々にですが、外国籍海外弁護士の採用も増えているように思います。結婚や、個人的な興味などで日本に住んでいる外国籍ロイヤーの中には非常に優秀な方が大勢います。ネイティブな日本語能力に拘らず、こうした人材に活躍の場を提供することで、法務強化に繋がります。今後こうした傾向は強まっていくと思いますがので、early adaptorになって、採用の先行者メリットを享受されることをお勧めします。

海外資格弁護士採用のコツ

まず、上記日本弁護士採用のコツと同様に、待遇によって専門性に対して目に見える形で正当な評価を示すことが重要です。
その上で、海外資格弁護士の特徴は、インターナショナルな環境を好むことです。多数の国籍の社員が在籍していることなどがベストですが、人材採用のためにそのような環境を整えるのは非現実的ではないので、フラットな組織整備や働き方の柔軟性の提示などが候補者アトラクトの案として考えられます。

また、海をまたいだクロスボーダー案件など、海外弁護士資格を持った人材ならではの能力を活かせるチャンスを強調することも非常に有効です。もし特定の地域の資格、例えば”NY州弁護士資格が望ましい”という条件がある場合は、その理由も明らかにすることが重要です。

法曹資格のない法務人材

法曹資格のない法務人材はなんらかの弁護士資格を持っている人材よりも採用が楽かというとそんなことはなく、コロナの採用への影響が大きかった2020年上半期を除き、過去5年以上、常に採用需要>>人材供給です。なんらかの特殊な業界知識のいる法務や、営業チームの中にいて行う法務(某大手ITコンサルはこれ専門の法務チームを持ち、私の知っている限り法曹資格をもっている人はほとんどいないはずです)など、特に法務 + アルファを求めているポジションで依然として引っ張りだこです。
また、近年コンプライアンスやリスクマネジメント職へ法務から採用することが増えてきており、ますます採用が困難になっていくと思います。

法曹資格のない法務人材採用のコツ

良い人材にはそれ相応の対価を準備する必要があるのは言うに及ばず、今後のキャリアパスが明確であることが非常に重要です。ミドルレベル以降の法務ポジションは、”日本、または海外の法曹資格”を問うものが多くなるため、法曹資格のない法務人材は中長期のキャリアを心配し、コンプライアンスやリスクマネジメントなどの経験を活かしながら、(少なくとも現時点では)法曹資格が必須とされない職種に移るケースが少なからずあります。中にはジュニアな内からこうした動きをする方も見かけます。
もしあなたの採用が、このような将来に対する不安を払拭する内容であるのなら、良い人材を上手くアトラクトできるはずです。前述の営業チームの中の法務や、徐々に注目の集まってきたプロダクト法務などは、純粋な法務スキルが占める割合が所謂法務よりも小さいため、法曹資格がなく、取る予定もない法務人材にとって魅力的に映ります。

コンプライアンス

コンプライアンスエリアの人材マーケット把握は非常に難しいです。理由は、多くの”コンプライアンス人材”はレジュメに”コンプライアンス”という言葉がないためです。
例えば、証券会社を顧客として法務アドバイスを行なってきた弁護士は、証券会社でのコンプライアンス採用において良い候補者となり得ます。しかし、彼/彼女のレジュメにはコンプライアンスという文字が入っていない可能性が大です。また、メーカーで経営企画を経験してきた人材をコンプライアンスポジションで採用したいという企業は少なくないですが、こうした人材のレジュメにも”コンプライアンス”という文言は記載されていないでしょう。

前置きが長くなりましたが、この記事で言うコンプライアンス人材とは、職位やレジュメに”コンプライアンス”の文字がなくても、”コンプライアンス”になり得る人材を指します。

コンプライアンスは大きく分けて規制業種(金融、ヘルスケア)と非規制業種があります。
どちらも人材数で言えばここ数年変化がありませんが、非規制業種は規制業種と比べてコンプライアンス職に注目が当たったのが最近であるため、タイトルが”コンプライアンス”である人は少なく、前述した“レジュメにコンプライアンスとない人材”を上手く見つけ、採用する必要があるため、規制業種のコンプライアンス採用よりも難しいという見方もできます。

コンプライアンス人材はコンサルティング会社での採用数も多く、採用を成功させるには相当の工夫が必要です。

近年は業界に限らず個人情報の取り扱いに厳しくなってきているため、GDPR、クッキー(Cookie)の取り扱い、情報セキュリティなどの知識を持った人材の人気が加熱し、採用が難しくなっています。

コンプライアンス採用のコツは、規制業種と被規制業種で分けてご紹介します。

コンプライアンス採用のコツ – 規制業種

金融、ヘルスケアともに既にコンプライアンス職を経験している人が相当数いるため、今までは如何に同業他社コンプライアンス人材をより良い待遇で引き抜くかが要でした。今後もこうした採用活動が重要なのは変わりませんが、同時に以下のような“コンプライアンスの直接経験を持っていないが、コンプライアンスに流用できるスキル・経験を持った人材”を探してくるかが重要になってきます。

一部の例を挙げます。

  1. 証券会社のEquity Advisory コンプライアンスに、Equityトレーダーを採用 – 商品知識がコンプライアンスでも使えるため
  2. 銀行のAMLコンプライアンス(アンチマネロン)に、送金業務担当を採用 – どのようにアンチマネロンが行われる可能性があるかの土地勘が期待できるため
  3. 製薬会社のコンプライアンスに、製薬会社の営業を採用 – 公正競争規約への理解があり、コンプライアンスでも活かせるため

今までもこのような採用は行われてきましたが、需要の増加に対し限りある人材プールから採用していくのにも限界があるため、今後はより直接経験者以外の掘り起こし採用の必要性が高くなります。
*特に投資運用会社のコンプライアンスにっては喫緊の課題と思います。

コンプライアンス以外からコンプライアンスポジションに採用する場合、最も難しいのは、コンプライアンスポジションの魅力を転職者に伝えることです。
誰もが自分の今やっている職種から離れ、新しいことを始めるのを恐れます。実際には職種の名前が変わってもキャリアの連続性があり、キャリアアップに繋げることも可能ですが、それを理解してもらうことは容易ではありません。
宣伝ではありませんが、こうした啓蒙活動は多くの候補者と接点のあるリクルーティング会社に手伝ってもらうのが効果的と思います。
また、元の職務内容によってはコンプライアンスへの転職によって給与が落ちてしまうこともあるため、その点も可能な範囲で考慮できると採用がぐっと楽になります。高給の提示以外にも、サインオンボーナスで給与ダウンをソフトランディングにするなど、色々と工夫の余地があります。

コンプライアンス採用のコツ – 非規制業種

既に述べたように、非規制業種は規制業種に比べ、コンプライアンス専任がまだ少なく、タイトルに”コンプライアンス”がついた候補者のサーチは困難です。
このため、規制業種のコンプライアンス採用以上に”コンプライアンスの直接経験を持っていないが、コンプライアンスに流用できるスキル・経験を持った人材”をどう探すかが肝になります。

法律への造詣が深い弁護士の採用や、業務監査をしている会計士など、何も資格保有が必須ではありませんが、コンプライアンス職で活かせるスキルを持った人材はたくさん考えられます。自社で採用しているコンプライアンスポジションに必要なスキルを整理し、その要件を満たせる可能性のある職種を洗い出すのが採用成功の第一歩です。例えば、GDPRの知識を求めるコンプライアンス職の場合、人事から採用するのも一考に値します。人事でGDPRを勉強することが増えてきているため(2019年頃に参加したドイツ商工会議所主催のGDPRについての勉強会では、特に人事向けでなかったにも関わらず、半数以上の出席者が人事担当でした)、採用要件に適った候補者が見つかる可能性は十分にあります。
但し、前述の規制業種コンプライアンス採用のコツ同様、こうした人材にコンプライアンス職に移る魅力を正確に伝えるのは至難の業です。

もしどうしても同業他社から直接経験を探そうとする場合は、所属部署の名称並びに役割の違いに要注意です。
あなたの会社のコンプライアンス部がやっている仕事が、他社Aでは人法務部の仕事であったりします。この例は名称が違うだけでまだマシな方で、多くの場合は次のようになります。あなたの会社のコンプライアンス部の仕事がx, y, zと三つあるとして、他社Bでは、人事部がx、法務部がy、営業がzと、分担。この場合は、同業他社の”直接経験者”は存在しないことになります。

リスクマネジメント

ERM(統合型リスク管理)、内部統制など、グローバル化、IT化に伴い、次々と新しいリスクの概念が生まれて(あるいは既存の概念に新しい名前が付与され、再定義されて)きています。こうしたトレンドに対し、リスク人材はサーチではなく、“発掘”の様相を呈しています。
様々な“リスク以外のポジション”からトランスファーが可能なため、既に述べた法務、コンプライアンスと比較した時に一番人材プールが大きいエリアであると同時に、探すことと興味を持ってもらうという点で一番難しいエリアとも言えます。

リスクマネジメント採用のコツ

募集しているリスクマネジメント職に“トランスファー可能な”人材は多くいると思います。リスク職の仕事内容の変化や、会社によっての業務範囲の切り分け方は複雑を極め、“ドンピシャリな人材”を探すのは、法務、コンプライアンス以上に難しいです。このため採用に際しては、“○○リスクの採用をするから、○○リスクの直接経験がある人を他社から探してこようという一種単純なCtrl-F的サーチは通用せず、採用前に以下の二点をしっかりと決め、採用に臨む必要があります。

  1. 完璧を求めず、どこまでは採用対象になり得るか決めること
  2. ポジション名に惑わされず業務内容をしっかりと把握した上で、どのような人材(リスクという肩書を持っていない人材も含め)が当てはまるのかを考えること

また、前述のコンプライアンス同様、リスクマネジメント職以外の人材がベストマッチなケースが多いため、そうした人材にどうやって興味を持ってもらえるかにも創意工夫を要します。
リスクマネジメントポジションは、法務、コンプライアンス、会計、営業、エンジニア、人事、等、本当に色々なバックグラウンドが候補者になり得ます。どのような人材がマッチするか理解するのが難しいですが、それは他社にとっても同じことなので、一度正しい理解が得られれば、法務やコンプライアンスポジションに比べ採用競争に悩まされることが少ないです。

いかがでしたでしょうか。
人材採用は日々専門知識を擁するようになってきたように思います。リスク、コンプライアンス、法務の順でパターンが多く、網羅的に文字で説明するのが難しくなっています。より詳しくお知りになりたい方はお気軽にご連絡ください。

国外オフィスへの情報共有用に同様の内容の簡易版を英語でも書きました。よろしければ以下のリンクをお使いください。
[For Hiring Managers] Talents Market Updates in Legal, Compliance, Risk Management Area. Tokyo, Japan

採用に関しては、よろしければ以下の記事もご参照ください。

参照人材獲得競争に勝つために取り組むべき4つのこと【失敗例から学ぶ】

【若手グローバル人材採用】狙った人材に来てもらうには

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