【出身業界が合わない?そんなの関係ない】法務転職の評価で重要な二つの軸
「未経験業界なんですけど、転職可能ですか?」
インハウスの法務転職においては、一般的に考えられているよりも業界を跨いだ転職がざらです。
一方「でも業界経験がないから選考落ちたよ」という方もいると思います。なぜ業界を跨いで転職できる方とそうでない方が混在するのでしょうか。
それは二つの軸を使って説明できます。
法務転職の二軸
インハウス法務転職の評価軸は大きく分けて以下の二つが存在します。
※人柄、性格、コミュニケーション能力も非常に重要ですが、今回は飽くまでもスキル評価に集中するため対象から外します。
軸1
扱う法律の種類、業界などのマッチ度。(以下「マッチ度」)
例えば「訴訟に強いので、生保企業の訴訟専門ポジション」、「製薬経験がある(製薬クライアントとのやりとりが多い)ので、製薬企業」など。転職者の方は、こちらを気にするのが一般的です。
軸2
一般的な優秀さ(以下「優秀さ」)。
強みを持った領域や、業界は関係ない法務パーソンとしての素養。軸1と違い、確固とした判断基準がないため、所属事務所・企業や学歴などで判断されることが多い。当然職歴、学歴と優秀さに完全な正の相関関係があるわけではないので、ここでいう「優秀さ」とは飽くまでも便宜的な意味です。
二軸での評価方法
以下が二軸評価を図にしたものです。
図1
図2
図1は「マッチ度高、優秀さ低」、図2は「マッチ低、優秀さ高」です。単純にオレンジ部分の面積の広さで判断されるのではなく、採用企業により、マッチ度優先、優秀さ優先が分かれます。自社が優先する軸の方を加重評価します。
例えば、以下図3のような人材は大概のポジションで内定と取れますが、
図3
何がなんでも豊富な業界経験を持っている人でないとダメだ、と考える採用責任者であれば、総合力で優秀さを犠牲にしてでも図3は見送り、図4の人材を選ぶということもあり得ます。
図4
結局採用責任者のニーズ、考え方次第というところですが、採用選考においてこのような二軸に基づいて能力評価をされていると知ることで、「〇〇業界に興味があるけど、経験がないしなぁ」とself rejectionしないで済みます。もしかしたらあなたが興味があるけど適性がないと思っているそのポジションは、あなたのような方を求めているかもしれません。
「優秀さ」重視の採用責任者の思考
上記のような話をすると、半信半疑の表情を浮かべる方が少なくありません。そうした時にいつも説明をしてるのが、成長曲線の話です。
赤線が前述の図1の人材、青線が図2の人材を表しています。スタート時点の業務処理能力は、赤線がリードしていますが、時間の経過とともに青戦の人材が急激に成長し、赤線を追い抜いていることがわかります。
このような予測が立つことから、成長を待つためのある程度の時間・人員的猶予のある組織の場合や、「優秀さ」への信頼が厚い採用責任者は「優秀さ」軸を加重評価する傾向にあります。
また、採用責任者自身が「マッチ度」の低いバックグラウンドから来て成功している場合(例、メーカー出身だが、IT業界に転職して法務部長まで上り詰めたなど)だと、「マッチ度」軸を重要視せず、「優秀さ」軸で採用判断をすることもあります。
シニアレベルの場合
ここまで読まれて、「それってジュニア人材だけじゃない?」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論から書くと、意外にもシニアレベルでも例外ではありません。例を挙げると、「法律事務所で不動産領域を扱われてきた方が、超大手製薬会社の法務部No2ポジションへ転職」、「大手外資法律事務所金融ロイヤーがGAFAMシニア法務ポジションへ転職」、「大手製造業の法務からGAFAM法務副部長ポジションへ転職」、「大手外資金融の法務部長が大手IT企業のGeneral Counselへ転職」など、枚挙に遑がありません。
例外
現在の専門性から完全に自由になり、どんなポジションにも行くことができるかのように書いてきましたが、例外もあります。
インハウスの中でも金融(特に証券、投資銀行、投資運用会社)や、M&A特化の法務ポジション(大手メーカーなどに通常の法務部と分けて置かれているところがある。一般的な法務ポジションに加えてM&A対応をするポジションはここには含まれない)などは、「マッチ度」要素を重要視されるため、「優秀さ」軸だけの勝負では難しいことが多いです。こうした領域に関心のある方は、キャリアの初期段階で選んでおく必要があります。
まとめ
転職のアドバイスをする中で強く感じるのは、大多数の方が「マッチ度」軸を気にしすぎなことです。案外「優秀さ」軸を重視する採用責任者も多く、興味があったら応募してみる価値はあります。
お見送りになって傷つくプライドや、「自分みたいなマッチしない人材が応募したら相手に失礼」といった思いは捨てて、思い切って自分本位に興味のあるものに手を出すことが、満足度の高いキャリア構築への近道です。前述の三例を含めた、「マッチ度」の低さを鑑みず、本当に自分のやりたい領域にチャレンジしていったみなさんは大変活き活きと仕事をされています。
ぜひこの記事をきっかけに、本当にやりたいことにチャレンジしていっていただければこれ以上嬉しいことはありません。