海外勤務のメリット・デメリット【主に弁護士向け】

キャリア 法務

海外勤務に興味はありますか?

外資リクルートメントファームに勤務しているからか、海外志向の強い弁護士の方とお話しする機会が多くあります。

そこで今回の記事では、実際に海外勤務をしている/していた弁護士と日々お話し、海外勤務のキャリアへの影響例を多数見てきた私の思う海外勤務のメリット・デメリットについてご紹介します。

コロナ禍で海外勤務の機会が減っている今だからこそ、海外勤務のキャリアへのプラスの活かし方を学び、自身にとっての最良のキャリアプランを導き出してもらえればと思います。

海外勤務のキャリアへの影響以降は弁護士以外の方にも当てはまりますので、ぜひご参照ください。

  1. 弁護士の海外勤務
  2. 法律事務所から送り出されるパターン
    企業から送り出されるパターン
    海外のポジションへ転職するパターン

  3. 海外勤務のキャリアへの影響
  4. 海外勤務のメリット・デメリット
  5. 英語力の向上
    経験値の向上
    コネクションの取得
    専門知識の習得
    時間コスト
    家族への影響
    帰国後の就職

  6. 海外勤務のこれから
  7. まとめ

弁護士の海外勤務

まずは弁護士の海外勤務にはどのようなパターンがあるかからお話しします。大きく分けて以下の三つが一般的です。

法律事務所から送り出されるパターン

ご存知の通り、多くの渉外法律事務所では費用事務所負担で海外ロースクールに留学に行くチャンスがあります。留学後に現地事務所で勤務してから帰国、というのが東京でビジネス法務を扱う弁護士が海外勤務をするルートとして最も一般的なものでしょう。

企業から送り出されるパターン

渉外法律事務所ほど一般的ではありませんが、企業から海外に送り出されるケースもあります。
ただし、企業派遣の場合は、海外勤務か留学のどちらかということが多く、「留学後にそのまま海外勤務をする」ということは稀です。つまり「留学を伴わない海外オフィス勤務」が主流です。

企業からの海外派遣を実現させるには、1. 海外派遣を行なっている企業を選ぶことと、2.派遣の選考に通ることが必須になります。海外派遣をしている企業でも条件(新卒のみ対象など)付であることも多いため、事前の確認が重要です。

海外のポジションへ転職するパターン

少数派ですが、法律事務所や企業から送られる形ではなく、直接海外にある事務所や企業に入る方もいます。

法律事務所の場合は、現地のロースクールに私費留学し、そのまま現地採用を狙うケースが多いですが、現在少なくとも米国においては現地法曹資格を取った日本人の採用が減っているため、現地資格を取得したものの米国内での勤務が叶わず帰国される方が増えています。
日本の弁護士資格を持っている方がこのケースで海外勤務を目指すケースは皆無です。

海外にある企業へ転職を希望するケースは相談件数が多い(配偶者帯同が理由である場合も多いため)ものの、希望に沿う仕事を得られる方は少数です。理由は、多くの国、地域では日本と比較し、有効求人倍数が低いことにあります。優秀な自国の人材が列をなして応募してくる中、わざわざ海外から現地の法律、規制、言語や文化に疎い外国人を採用する強い動機がある企業は多くありません。

海外勤務のキャリアへの影響

次に海外勤務のキャリアへの影響です。言うまでもなく、通常海外勤務はキャリアにプラスの影響をもたらします。しかし、海外勤務経験に過度の期待を持っている方もいらっしゃると感じます。

海外勤務経験は、飽くまでもキャリア形成の補助的役割です。

例えば、自分の市場価値が数値化できるとして、現在80点だったとします。1年の海外勤務によって85点に上がるかもしれませんが、もしかしたら現職のあるプロジェクトに関与することで90点まで上げることができるかもしれません。

海外勤務は飽くまでも選択肢の一つ、自分の持つオプションをなるべくバイアスが掛からないよう判断することが重要です。日本で海外勤務をする人はまだ少数のため、そのことで海外勤務経験を必要以上に特別視してしまうと、キャリアプラニングに悪影響が出ます。

それでは、具体的なメリット・デメリットに移りましょう。

海外勤務のメリット・デメリット

海外勤務のメリット・デメリットは以下の通りです

以下に各項目を少し掘り下げて解説します。
初めの4つはメリットです。

英語力の向上

海外勤務により英語力が向上することは想像に難くないでしょう。当然採用企業も英語要件のあるポジションに対して、海外勤務経験のある人材を優先して採用しようとします。
しかし稀に海外勤務を経てもあまり英語が上達していない方もいます。理由は主に二つ、1. 海外オフィスでの仕事内容が日本対応というケースと、2. 勤務する海外オフィスに日本人が何人もいてその中で仕事が完結するケースです。いずれもほとんどの業務が日本語のみで行えるため、英語の上達に繋がりません。

こうしたケースでは、努めて現地社員とコミュニケーションを図るなど、学習機会を最大限に有効活用することが重要です。

経験値の向上

海外勤務は多文化(少なくとも他文化)環境を通して、様々な異なる考え方に触れながら仕事をすることになります。言い換えれば国内で出くわさない問題が多く起こり、普段経験できない問題への対処能力を身につけられるということです。
国内とは異なる環境で得た経験値は調整能力や柔軟性、コミュニケーション能力など、キャリア形成で重要な多くのものをレベルアップさせます。

海外勤務は、いわゆる「well-rounded」な人材になる近道です。

コネクションの取得

海外勤務を通して、国外のコネクションを得ることも期待できます。
最近の例では、ある弁護士の方が昔米国の事務所で勤務していた時に知り合った現地弁護士との縁で某有名ITサービスの日本での立ち上げ法部長に誘われました。

ジョブオファーのために打算的に動くことをお勧めしているわけではありませんが、海外勤務の縁がもたらしたことの一例です。

また、日本での仕事で海外現地法を調べる必要があるときなどにもその国・地域に信頼のできる弁護士の友人がいると心強いと思います。もちろん相手が助けを求めてきた際には手助けをすることが必要です。

専門知識の習得

メリットの最後は法律知識の習得です。
特に海外のトレンドを現地で学べるという点は見逃せません。

国境を越えたビジネスが多くなる中、金融規制や、知財、仲裁など、海外(特に欧米)のトレンドを知ることで日本での仕事がやりやすくなる分野は多くあります。海外勤務をすることでこれらに明るくなることはもちろん、雇用側にも「知見があるだろう」という安心感を与えられます。

次にデメリットです。

時間コスト

海外勤務は正しい理解のもとにするのであれば目立ったデメリットはないと思っていますが、時間コストには留意しておいた方が良いでしょう。

残念ながら雇用側から見て人材の市場価値は時間とともに落ちていきます。否定する方もいると思いますが、純然たる事実です。それでも私たちが時間の経過とともに「キャリアアップ」できるのは、上記の市場価値の下落分を補って余りある市場価値の上昇を教育や経験などによって実現していくからに他なりません。

自分で海外転職をするケースは時間コストによる市場価値の下落を補完するに十分な内容の経験を積むことができないことがよくありますのでご注意ください。

家族への影響

自分の家族への影響も無視できません。特にあなたが自分の家族を持っている場合は単身であろうと、家族帯同であろうと自分の海外勤務が配偶者や子供に与える影響を考慮する必要があります。
配偶者が仕事をしている場合、海外勤務への帯同による影響はマイナスである可能性が高くなります。どんなに能力がある人でも海外でキャリアアップに繋がる仕事を得ることは非常に難しく、妥協した仕事やキャリアの連続性に欠ける修学でお茶を濁す(得られるうる選択肢の中ではベターではある)ことになる可能性が低くありません。この点についてはコロナの影響によるリモートワークが増え、光明が見えてきた感はあります。詳しくは直接ご相談ください。
デメリットに分類してよいのか迷いましたが、家族へのマイナスの影響を最小限にすることに骨が折れるため、こちらに入れました。

帰国後の就職

海外勤務検討時点で帰国後の就職にも気を配っておくことをお勧めします。
「海外勤務が長すぎて国内での就職が難しくなる」というケースをよく目にします。海外勤務もほどほどの期間にしないとデメリットになるというのは、キャリア相談で話すと意外に思われる隠れた常識の一つです。

海外勤務が長い(=日本国内で仕事をしていない期間が長い)ということは、日本法の取り扱い、日本語を使ってのビジネス、日本の商慣習等から離れているという印象を雇用側に与えます。法務採用は通常コンサバなのでいくら海外で大活躍をしていても採用に二の足を踏む雇用主が大多数を占めます。

ここで「何年なら良いか」という質問が出てくるかと思います。一概には言えないものの、3年以下で懸念する企業は皆無、5年までであれば半数以上の企業が「キャリアにプラス」という判断を下すでしょう。

一生海外で暮らすつもりの方には余計なお世話かもしれませんが、そうした決心をして長期で海外生活をされてきた方の中にも両親の世話など家族の都合で帰国、就職せざるを得なくなった方は大勢いらっしゃいます。このような可能性もあるということだけは頭の片隅に置いておいて損はないと思います。

海外勤務のこれから

海外勤務経験への評価は今後もっと上がっていくものと思います。
英語力だけでなく、意見やバックグラウンドの違いへの理解、柔軟性を持った人材は、ビジネスシーンの多様性の推進のもと、今以上に必要になっていくためです。

現に採用への協力依頼をいただく際に海外勤務経験を「better to have条件」として入れる雇用主が年々増えています。
海外勤務はキャリアアップへの絶対的な成功条件ではありません。しかし、メリット・デメリットをよく理解した上で、検討してみることに価値はあるでしょう。

まとめ

  1. 弁護士の海外勤務への道は、事務所からの派遣、企業からの派遣、個人の三つ。
  2. 海外勤務はキャリア構築のスパイスではあるが、必須ではない。
  3. 海外勤務で得られるメリットは、英語力、経験値、コネクション、専門知識の四つ。
  4. 海外勤務で注意するべき点は、時間コスト、家族への影響と帰国後の就職。
  5. 海外勤務経験は、今後もジョブマーケットでの注目度が上がっていくが、自分のキャリアプランにマッチするかは冷静に検討すべき。

この記事がキャリアプラン構築の役に立つことを願っています。